社会課題解決のために“データ”を活用できる人材の育成と組織変革

―― Data Science Fes 2019 クロージングフォーラムから

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 「Data Science Fes 2019 クロージングフォーラム」が2020年1月30日、東京・大手町の一橋講堂で開催された。昨年9月にスタートし、約4カ月にわたり「データ社会を発展させる力=データサイエンス」を実践する人材育成や組織・企業変革を推進するプロジェクトに、最前線で活躍する第一人者らが語り合ってきた。今回は、その締めくくりとなる。
 これまで「社会全体のデータリテラシーの向上」「人材育成」「経営・マネジメントとの変革に寄与するネットワークの構築」について熱い議論を繰り広げてきた。最終回となる今回は「データ/AIのビジネス活用への勘所」「大学の実践的な教育への取り組みと企業との連携」「Data・AI―Readyな社会を私たちが創ってゆくために」という3つのテーマで語り合った。

<セッション1>
「データ/AIのビジネス活用への勘所」

プラグ 代表取締役社長 経営管理博士 小川亮氏
日経BP総合研究所 主席研究員 杉山俊幸氏

人手不足などのマイナス要因を技術革新の原動力に
日本の強みをグローバル展開した大賞を含む6プロジェクト紹介

 最初に、オープニングリマークスにも登壇し、プレフォーラムから携わってきた日経BP総合研究所主席研究員の杉山俊幸氏が「ディープラーニングビジネス活用アワード」(日経クロストレンドと日経xTECHが共同で実施)について触れ、ディープラーニング活用の多様な可能性が感じられるアワードとなった6つの受賞プロジェクトを紹介した。

杉山:「データとAIのビジネス活用」において何ができるかを模索する1つの手法として、日経BPが考えたのがアワード形式。昨年10月10日に、日経クロストレンドと日経xTECHが共同で実施した「ディープラーニングビジネス活用アワード」の表彰式が行われた。審査する上で重視した観点は、新たに生み出したビジネスの売り上げ・利益、働き方改革、社会課題の解決といった「産業・社会的なインパクト」があるか、アルゴリズム・データの「先進・独自性」があるか、一般に活用が遅れている分野へ適用する「チャレンジ度」があるか。受賞した6つの企業について簡単に紹介する。なお第2回の表彰式も今年10月に実施予定である。

 大賞はキユーピーの「AI食品原料検査装置」プロジェクト。異物混入対策として人に頼っている食品の原料選別を、ディープラーニングが得意とする画像認識の技術を使った検査装置に置き換えるもの。原料検査は食品業界にとって協調領域と位置づけて、キユーピーはオールジャパンという目線から同業他社へも販売する。人手不足などのマイナス要因を技術革新の原動力にし、日本の強みをグローバルに展開できる産業全体の動きをつくっていくことは、食品以外の様々な業界にも模範となる事例となった。
 優秀賞には、楽天の自動翻訳プロジェクト「Rakuten Translate」、荏原環境プラントが進める「ごみ焼却プラント運転自動化プロジェクト」、水処理など流体向けAI分析のAnyTechが提供する「水質判定AI『DeepLiquid』」の3つが選ばれた。
 そして特別賞として、保育園向けITサービスのユニファの「写真自動判定システムによる保育士の業務負荷軽減」、そして今回登壇いただくプラグによる「パッケージデザインの好意度スコアを予測するAIサービス」。セッション1では、なぜ「ディープラーニングビジネス活用アワード」にチャレンジしたのか、また「パッケージデザインの好意度スコアを予測するAIサービス」というプロジェクトが目指すものについて、プラグ代表取締役社長の小川亮氏にお話しいただきたい。

消費者が好む商品デザインを予測する「パッケージデザイン評価AIサービス」
アワード審査委員が「仕事のやり方や速度感を変えるサービス」と高く評価

小川:まずはプラグについて簡単に説明したい。マーケティングリサーチ・デザイン・商品開発という3つの分野でマーケティング活動をサポートしている。リサーチ・デザインといったマーケティング領域におけるプロフェッショナルスキルを持つスタッフとして、常にそのスキル、知識を磨き、顧客の成功に貢献できる会社でありたいと考えている。20年以上、マーケティング分野で調査とデザインという2つの専門領域を行ってきた。

 デザイン分野においては、30人のデザイナーと国内外のクリエーターによるチームで、パッケージデザインを中心に年間200商品を超える商品づくりを行う。リサーチ分野では、年間1300インタビューを超える実績があり、100万人を超えるモニターによって、定性・定量両面での総合的な調査、企画、実施も行う。
 今回の「パッケージデザインの好意度スコアを予測するAIサービス」が特別賞を受賞したのが弊社のマーケティング分野。ディープラーニングを使って、商品のパッケージデザインの好意度を数分、数万円で予測できるモデルだ。
 これによって、費用面の理由から事前調査できなかった中小メーカーでのデザイン評価が可能となり、市場を大きく広げることにつながる。学習データには、5年間で蓄積した4115商品、延べ411万5000人の消費者調査データを活用。好意度には、ブランド認知度も影響することを考慮し、Yahoo! JAPANの検索数も加えた。
 パッケージが決まるまでの例を1つ紹介すると、ビールの新商品発売の場合、200種類以上のパッケージデザインを作成し、最終的には3つ程度に絞って実際に売り場の棚をつくって会場調査を行う。会場調査にかかる時間は準備から分析まで含めると1~2カ月。予算は200~300万。時間もお金もかかるうえ、SNSに誰かが画像をアップして情報が漏れる危険性もある。しかも仮説検証は会場調査1回につき1回しかできない。このAIサービスを使えば、10個の評価に約1分。何度でも検証可能となり完成度も上がる。
 では、そもそもなぜこのAIサービスをつくったか。それは「良いデザインとは何か?」という思いから。弊社の51歳の私立大文系出身、プログラミング経験ゼロの副社長が独学で勉強し、東京大学の山崎教授の協力も得て今回の受賞につながった。消費者調査も継続しており、データ増量によるモデル改善も続けている。

杉山:開発に携わった副社長の他にメンバーはいるか?

小川:現在、東大と共同開発を進めているが、担当者は副社長1人のみ。アワードで特別賞をいただいたことで立ち位置が明確になったので、これから事業としてのマネタイズとかAIのチームを社内外にどうやってつくっていくかというステージに来ている。今後やりたいこともさらに増えてきているので、どういうチームをつくるかを検討している最中。ぜひ優秀な学生に来てもらいたい。

杉山:学生は今や超大企業志向ではなくなってきている。特にデータサイエンス、AIのまわりでは顕著なように思う。

小川:先日、参加した早稲田大学の産学協働をテーマにしたパネルディスカッションで、ベンチャー、大学、そして大企業の3つが組むケースが増えてきているという報告を聞いた。組み方が以前に比べオープンになってきており、こうしたフレキシビリティは企業の開発力に直結するのかもしれないと感じている。

杉山:IT系大企業は、アクセラレータープログラムを各社がつくっていて、自分たちだけではなく新しいアイデアを外部から受け入れる土壌がたくさんある。そこにアワードも絡めながら、ゲーミフィケーション的な感覚を取り入れながらコンテストに参加し、スキルを磨く。それに対して大企業が投資をしたり、一緒にプロジェクトを行ったり。Data Science Fesでも、実際に企業と学生がコラボをスタートさせようといったアイデアが生まれた。このアワードは、ただ単に功績を褒めたたえるだけではなく、実際のビジネスにも直結していく場になっていると感じている。

<セッション2>
大学の実践的な教育への取り組みと企業との連携

ADKマーケティング・ソリューションズ 事業役員/Data Chemistry 代表取締役社長
沼田洋一氏
横浜市立大学 データサイエンス学部 准教授/WiDS Tokyo @YCUアンバサダー
小野陽子氏
ファシリテーター:POL 代表取締役CEO 加茂倫明氏

データサイエンティストは大学で育成することは可能だが
企業側が最も求めているのは「課題を設定する能力」を擁する人材

加茂:今回のテーマは、大学においてデータサイエンス人材をいかに教育していくか。また、企業がどのようにかかわれば優れた人材を育成していけるか。後半の議論につなげるため、POLの紹介をさせていただくと、創業4年目で、ミッションは課題解決とイノベーションにより良い未来の到来を早めること、自分たちにしか創れない良い未来を創ること。
 今、世の中では、研究費不足や研究者のキャリアと待遇の問題、研究者の時間を奪う過重な雑務、産業界とアカデミアの大きな溝など、無数の課題を抱えている。全国の理系学生の4人に1人が登録する理系スカウトサービス「LabBase」と、もう1つ、全国の大学研究者と気軽に出会える産学連携プラットフォーム「LabBase X」を運営している。現在、400名の博士が登録するシンクタンクとなっている。では本題に入る。まず、沼田氏には企業側の観点からお話しいただきたい。

多面的な視点が必要とされる課題設定力を持つには
自分の経験を超えた想像力が求められる

沼田:ADKは広告会社だが、近年は顧客データやログデータを使った分析から様々なコミュニケーション活動の提案につなげることが多い。私は文系の出身だが、必要に迫られてデータベース構築、システム開発、統計分析とやってきて、会社ではデータ担当役員となっている。まず初めに、データとは何かを定義したい。データとは、意味のあるもの、ないもの合わせて「量」をたくさん集めること。集めたデータをある「視点」から整理したものがインフォメーション。そして整理した情報を分析し、発見するインテリジェンス(洞察力)。さらにその先にあるのが、発見に基づく判断=Decision(決定)、そして判断の結果から行うAction(行動)へ。ロジックとデータという2つの軸があるが、分かりやすいロジックとそれを証明するデータの2軸両輪あればちゃんと判断して行動を促すことができる。
 現在、ADKは3つの大学へデータ提供を行っている。1つは、東京大学。数理・情報教育研究センターが設置され、産学連携の成果を産業界の発展に活用するための推進母体としてUTokyo MDSコンソーシアムがあり、ADKも参画している。そして、文系大学であるが「データ」と「英語」に注力する武蔵大学社会学部GDSコース、専門領域とデータ科学との知見の融合を目指す早稲田大学データ科学総合研究教育センター(DSセンター)だ。
 企業データを大学に預けるのはハードルが高く、情報流出などの様々な課題がある。契約書ひな形の準備等、大学側の法務面体制などが整っていない大学が多い中、早稲田大学のDSセンターは企業が保有する貴重なデータを大学で有効に活用できる仕組みを契約面とシステム面で一括してサポートする仕組みができている。
 では、なぜADKがデータ提供を大学側へ行っているのか。理由は、実際のデータを用いなければ問題解決能力を有する人材育成にならないから。データサイエンティストは大学での養成は可能だが、実務で困るのは「課題設定力」。これは、自分の経験を超えた想像力と多面的な視点が必要とされる能力だ。ADKが提供する実際のデータを使って、学生の「視点」で整理し、情報を分析し、そして課題を発見するインテリジェンスを大学で養えることに貢献したい。

データサイエンスは「モード2」のフェーズ
社会課題の解決に与えるインパクトが評価される時代

加茂:では、続いて小野氏には大学側の観点からお話しいただきたい。

小野:我々は学生に対して何をしなければいけないか。第一にドメインへの興味喚起がないと始まらない。YCUでの教育プログラムで土台となるのが「ドメインへの興味喚起」。その上に数学を含む基礎教育、次にアルゴリズム・統計・計算機科学。その上にあるのが、学問の融合領域。いわばここがAI、ディープラーニング教育にあたる。最後が「ドメインでの学び」。ここが最も重要となる。
 今、最も必要とされているのは沼田氏のお話にもあったように「課題発見能力」。これまでは限られた学問の専門分野の知識体系の発展への貢献度によって評価される「モード1」だったが、データサイエンスは明らかに「モード2」のフェーズ。モード2は、独自の理論構造、研究方法、研究様式を構築し、参加者は大学研修者のみならず産業界、政府の専門家、市民も参加するもの。社会課題の解決に、どのようなインパクトを世の中に与えるかまで評価される時代となった。
 大学だけで全てを学ぶのは無理なので、学外の方々にも協力していただいている。1年次は様々な企業の方にお越しいただき、データサイエンスに関するセミナーを。2年次は、データのクレンジング(データ活用の下準備として行う顧客管理システム内の情報を整理・更新する処理)などを学び、3年次はインターシップヘ。学生には、理論として大学で学んだことを積極的に大学外で展開しなさいと伝えている。実際の現場で2~3週間かけて、課題発見、解釈・提案、提案完了までを目指す。
 次にWiDSについて。WiDSは、米国スタンフォード大学のICME(Institute for Computational & Mathematical Engineering)を中心とした世界的な活動で、性別に関係なくデータサイエンス分野で活躍する人材を育成することを目的としている。よくこれはジェンダーかと聞かれるが、「Wi」のつく団体は今や世界中にある。人口の半分である女性が少数でしかない学会は、衰退すると見込まれることへの危機感の表れである。
 データサイエンスティストを育成すること、そしてWiDSというプラットフォームをつくることの意味は、何でも一人でできるデータサイエンティストをつくることではない。統計の言語も、計算科学の言語も分かってビジネス方面に展開するために、広く様々なことを理解してみんなで協働できる環境を整えること。それぞれが得意なものを持ち寄って集まり、様々な企業と横につながっていく場をWiDSがつくっている。

「課題設定力」を擁する人材を育むに大学と企業ができること

加茂:セッション2の後半に入る。お2人に共通していたのは「課題設定力」。初めに沼田氏にお聞きしたい。課題を設定するには様々な視点と想像力が必要だということだが、それを擁する人材を育むには、どのような機会を学生に設定すればいいのか。

沼田:やはり想像力が重要。それを養うための様々な研修を行っているが、今の学生は「正解を求める」という傾向がある。自分が知らない世界のことでも、「あるべき姿」を想像する「妄想力」が必要。また、問題解決のために既成の理論や概念にとらわれず、いろいろと視点を変えて問題解決のために自由にアイデアを生み出す「水平思考的な発想」も必要だと思う。

加茂:次に小野氏に伺う。1年次に企業によるデータサイエンスセミナーを行う理由は。

小野:興味喚起が目的。1年生は線形代数、統計などの学問を基礎として学ぶが、データサイエンス学部は何のために学ぶ学問なのかの目的が見えないと、学問そのものへの興味がなくなる可能性がある。データサイエンスを学ぶ目的の羅針盤とするために企業によるセミナーを行う。

加茂:このセッションが始まる前に、小野氏が「コミュニケーションで苦労している」と話されていだが。

小野:データサイエンスが生まれる以前に所属していた分野が異なる者同士が、データサイエンス書籍翻訳などの仕事に共にあたると、伝え方の用語が違うとか式の書き方が違うとか、まだデータサイエンスの言葉が存在していないのではと痛感する事態に陥る。私は統計の出身だが、それでもコミュニケーションの壁を感じることがある。人間同士のコミュニケーションではなく、学術言語やプログラミング言語などを使った対話能力を身につけること、さらに社会に対する説明と対話ができるようになる必要性を感じている。

加茂:例えば、「セッション1」でお話があったプラグ社の副社長のような文系出身の人と、データサイエンスの理系の人が歩み寄るにはどうしたらいいのか。最後にお2人の考えを私の言葉でまとめると、沼田氏は、文系の学生はまず専門の本をたくさん読んで勉強すること。10冊読めばなんとかなるはずだと。難しい数式は読み飛ばし、文章を読むだけでも専門的な言語を共有できるようになり、いずれ相手を動かせるようになるという考え。一方の小野氏は、よく分からないデータサイエンスの本を10冊読んで知識を得るために必要になるのが情熱であると。データサイエンスを使って社会課題を解決したい、未来をこんなふうにデザインしたい、という強い思いが必要だということ。今日のセッションでは、様々な課題や可能性を皆さんと共有できたと感じた。

<セッション3>
DATA・AI―Readyな社会を私たちが創ってゆくために

ディップ AINOW編集長 小澤健祐氏
経済産業省 情報技術利用促進課長 瀧島勇樹氏
高専キャリア教育研究所 代表取締役CEO 菅野流飛氏

 セッション3では、「Data・AI―readyな社会を私たちが創ってゆくために」と題して、データドリブン、AI活用の拡大に向けた社会や個人の変革に向けた議論が、主に「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を題材に展開された。

企業がAIを導入する上で一番の課題は「課題の不明確さ」にある

小澤:初めに、ディップについて少し紹介したい。2013年12月に東証⼀部に上場し、17年3月に設立20周年を迎えた。日本最大級のAI・人工知能専門メディア「AINOW」は、AIに特化したニュースを3万件以上公開している。また、AI・RPAを提供する「労働力の総合商社」として、労働力の諸問題の解決への貢献に取り組んでいる。
 さて、19年を振り返ると、Googleが検索エンジンに導入した最新自然言語処理の最新モデルBERTの登場。紙に印刷された文書をデジタイズし、よりコンパクトな形で記録するOCR(光学文字認識)の技術と市場が確立。AI OCRサービスを手がける「AI inside」が、19年12月25日に東京証券取引所マザーズに新規上場、フランス発エンジニア養成機関「42 Tokyo」が日本初で設立されたことなど大きなニュースが続いた。
 企業がAIを導入する上で一番の問題は「課題の不明確さ」。課題そのものを理解していない人が40%近いといわれている。17年当初にあった「AI導入企業が少ない」という原点に立ち返って、20年は課題を解決するための新規プロジェクトを立ち上げて、優秀な人材を集めていくやり方が増えていくと考えている。

国が旗振り役となり企業のDXを後押し、
投資や優秀な人材を呼び込むきっかけをつくりたい

瀧島:課題をどうつくるか。どんなメリットがあるのか。データを使って何をしたいのかが見えていないと課題は出てこない。DXとは、デジタル技術を使って人と人のつながり方を変え、それによって今まで本当にやりたかったことができるようになることだと思う。
 DXを実現する上で「レガシー問題(*)」がある。変化に対応できずに起こる危機を「2025年の崖」と呼んでいるが、もし25年までにシステム移行の対応ができていなければ、毎年12兆円の損失が発生すると予想されている。DXができない会社にいい人材は集まらないし、レガシーシステム問題を解決しようとしていない会社に優秀な人材は来ない。
 経済産業省では「DX推進指標」を作成し、スコアリングできるようにしている。各企業が簡易な自己診断を行うことを可能とし、経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門などの関係者の間で現状や課題に対する認識を共有し、次のアクションにつなげる気づきの機会の提供を目的としている。社内で自己診断し、部門間のコミュニケーションをする際のツールにしていただきたい。
 また、20年春にもレガシーシステムの刷新やデジタル化による経営の効率化を求める指針「デジタルガバナンス・コード」をつくる。加えて同指針に沿って事業を行い、経営者がステークホルダーと対話をする用意がある企業を見える化する制度をスタートします。さらにそのなかでもベストプラクティスをDX銘柄として表彰する制度を日本証券取引所と開始します。このようにして、本気でDXに取り組む企業に資金や人材、ビジネスの機会が集まるきっかけをつくりたいと思っています。

*レガシー問題
従来使ってきたITシステムが老朽化・複雑化し、データを活用して経営を行ううえでの足かせになる問題。ここ数年でサポートが終了するITシステムも多く、メンテナンス費用の高額化、人材不足、システム障害の増加などの危険性も指摘されている。

クリエイティブでカオスなものから構造を生み出す才能が高専生にはある

菅野:初めに自己紹介をさせていただく。東京高専物質工学科を卒業後、東京工業大学にて分子生物学を専攻し、博士課程まで進学。その後、リクルート他、IT・ウェブ業界でベンチャー企業から大手企業までを渡り歩いてきた。
 現在は、高専生のキャリア開発のためのプラットフォーム事業を推進している。本日は、社会構造的な視点から「なぜDXが進まないのか」をお話ししたい。実は、IT/IoT/AIの分野で活躍する優れたスタートアップ企業に高専卒学生をイノベーターとして送り込みたいと思っている。ところが送り先がない。
 大学は教養機関なので、そもそも実践力を磨く場ではないが、現場における高度な実装という部分では高専は強い。去年の「Hack U」で優勝したのも高専出身。現場で何かを実行したり、クリエイティブでカオスから構造を生み出す才能が高専生にはある。
 高専生の優れたところは「不確実性」に強いところ。構造的・官僚的なものの対極にあるのが完璧なカオス。イノベーションのハードルが高いのは、構造を壊して再構築する必要があるから。DXは単にITツールを導入するのではなく、組織構造の転換が必要という意味でカオスそのもの。不確実性を楽しめるメンタリティを持ち、構造的・官僚的な側の方がカオス寄りの人間を「生かす」という発想と組織文化がないと実現しない。完璧なカオスにいる高専生が20%いるとして、残り80%の構造側の人たちが高専生タイプを許容範囲として受け止められるか。そこに「なぜみんなDXが進まないのか」の答えがある。

チャレンジングな人間を受け止められる土壌があれば、日本社会は大きく変わる

瀧島:カオスは新しいものを生み出すし、官僚的な構造化された組織は、安定的なオペレーションを実現する。これらのミクスチャー、役割分担についてどう考えるか?

菅野:これまでスタートアップから大手企業まで経験してきたが、カオスな高専卒の私のような人材を唯一守ってくれた会社がリクルートだった。役職があり、構造を守る側にそういう人がいてくれたことで、パフォーマンスがすごく上がった。チャレンジングな環境が提供されないのであれば、チャレンジングな人間が存在する必要がない。それを受け止められる土壌があれば、日本社会は大きく変わる。

小澤:私の会社でも同じようなことがあったので、管理者がカオスな部下を「守る」のは大事だと痛感している。高専生に限らず、今の日本社会を支える大企業がカオス側の人間を受け入れていくためにファーストステップとして何をすべきか?

菅野:大企業が社内でイノベーションを起こすのは難しい。おそらく「オープンイノベーション」という取り組みになると思う。社外の別の場所に治外法権的な環境を物理的、形式的につくるのも一つのやり方だと思う。

小澤:瀧島氏の話にあった「2025年の崖」「レガシー問題」はマイナスをゼロにも戻そうとするアプローチだが、そうではなくてプラスの人事組織を構築する、プラスの文化をつくっていくのがAI―Ready化につながるように思う。プラスの組織をつくるのは非常に難しいが、どう思うか?

瀧島:DXを進めるうえでは、菅野氏が言うような自由な空間をつくって「デジタルイノベーションを起こす」ということを、組織全体で共有することが大事。そのうえでは、経営者のリーダーシップへの期待は大きい。外部から優秀な人材をいれる、それをサポートするチームをつくる、現場に権限を委譲する、評価の仕組みや人財への投資の仕方を変える。そのようにして大胆な改革に乗り出している企業も増えてきている。デジタルガバナンスコードやDX銘柄を、そのような抜本的変革をサポートするものとして実装していきたい。

Information

イベント名
Data Science Fes 2019
主催
日本経済新聞社
期間
2019930日(月)~20191129日(金)
お問い合わせ
dsfes@nex.nikkei.co.jp