事例から検証する
データドリブン経営・ビジネス戦略

―― Data Science Fes 2019 ビジネスデベロップメントフォーラムから

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 11月11日、東京・千代田区のJPタワー ホール&カンファレンスで「Data Science Fes 2019 ビジネスデベロップメントフォーラム」が開催された。日本経済新聞社が主催するData Science Fes 2019は、「データで社会を変える=データサイエンス」を起点に、産・官・学の変革に意欲的なステークホルダーが一堂に集まり、日本全体でデータ・ドリブンを加速させるために共に考え、共創してゆくプロジェクト。ビジネスデベロップメントフォーラムでは、データドリブンを志向する企業の経営・マネジメント層に向けて、数々の実績を誇る先進企業の事例を中心に、ビジネスへの実践方法やそのための人材配置・人材育成などについて紹介された。

<企業講演>
事例から導くビジネスのAI化に向けた
プロセスと見えてきた課題

インテージホールディングス アルゴリズム事業準備室 室長 小金 悦美氏
株式会社𠮷野家 CMO(Chief Marketing Officer)田中 安人氏

斉藤 孝章氏

創業から120周年を迎えて“原点回帰”でV字回復中の𠮷野家を支援

 インテージの小金氏が𠮷野家の田中氏と最初に登壇。途中から実務を担当したインテージのデータサイエンティスト、竹村彰浩氏が加わるかたちになった。
 2019年、創業120周年を迎えた𠮷野家の経営は、今大きなブレークスルーの時期にある。原材料費や人件費の高騰、牛丼チェーン店同士の競争激化など、経営を取り巻く環境が年々厳しさを増しているからだ。“次の120年”へ向けて同社は2015年に長期経営ビジョン「『飲食業の再定義』への挑戦」を策定。ビッグデータの活用を通して、消費者の購買履歴を積極的に販促へ生かしていく取り組みを加速させている。
 講演ではまず、インテージがマーケティング領域から𠮷野家を支援する背景と経緯について言及があった。
 「2019年3月期、インテージのグループ全体の連結売上高は約540億円でしたが、そのうち63%が消費財・サービス分野、24%がヘルスケア分野へのマーケティング支援事業が占めています」(小金氏)

 多彩なデータの収集・分析・提供から始まった同社のビジネスは現在、さまざまな分野・業界の企業・団体の支援へと発展してきたのだ。
 他方、𠮷野家は2018年9月通期の見通しが6年ぶりに最終赤字に転落することを公表。それから約1年あまりで驚異的なV字回復を果たす。そのキーパーソンが、CMO(Chief Marketing Officer)の田中安人氏だ。
 「マーケティングの専門家として、𠮷野家の商品開発、企業としてのコミュニケーションのあり方、そしてPRと幅広く経営の根幹に関わっています。6年ぶりの通期赤字になった要因はやはり、メニューのジャンルと種類を増やしすぎたこと。牛丼チェーンでありながら、定食店のようなメニュー展開を進めてしまったことにあると思います。𠮷野家の原点はやはり『うまい、やすい、はやい』牛丼を提供することです。この“原点回帰”への取り組みを象徴するのが、『“飲食業の再定義”への挑戦』という長期経営ビジョンです」(田中氏)

 この取り組みが早速結果に結びつく。日本経済新聞が10月30日(水)付で報じた2019年2月期決算企業の上期における純利益進捗率で、𠮷野家は実に1870.0%という驚異的なV字回復を達成したのだ。年初来の株価上昇率も40%超を記録した。
 「3~8月期の最終損益が2年ぶりに黒字に転換したというニュースはとてもうれしかったですし、マーケティングの側面からサポートさせていただいている立場として大きな励みにもなりました」(小金氏)

マーケティング領域からの支援で、商品力、オペレーション、出店計画を強化

 マーケティング領域からビジネスを支援するにあたって、インテージと𠮷野家との間でまず策定されたのが、飲食業にとって“生命線”と言える「商品力」、「オペレーショナルエクセレンス」、「出店計画」の3つをAIの導入・活用でさらに強化していくことだ。
 「『商品力』とはまさに、おいしい牛丼を提供し続けていくということ。それから𠮷野家の強みは何かというと“エクセレントなオペレーション”なんですね。『うまい、やすい、はやい』のなかの『はやい』。早いだけではなくて、エクセレント。つまり、スマートにスピーディーに牛丼を提供するスキルです。これはどの外食チェーン、牛丼チェーンにも負けない自信があります。お客さまからの評価も高い」(田中氏)
 ここで小金氏は、実務面でデータ収集と分析・活用を担当した同社のデータサイエンティスト、竹村氏を紹介。

 「𠮷野家の店舗でのオペレーションはとてもすぐれていますが、そこからさらに工数を削減できないかというのが課題でした。まず、各店舗にいるスタッフが週次で手動で行っている入客数予測を自動化することによって工数削減できないかと考えました」
(竹村氏)
 そのために活用したデータは、店舗の所在地や席数、メニューの価格や材料、客数や個数、売上金額など細かなデータ、CMやSNSなどを使ったキャンペーン情報、気温や降水量などを含む天気データなどであったという。
 一方、牛丼チェーンを含む外食産業全体で激化する競争を象徴しているのが「出店計画」だ。𠮷野家の場合、1店舗あたり数千万円の投資が必要なだけでなく、その回収期間は5~6年になる。事業全体を左右する最重要のビジネス課題と言える。
 「実は𠮷野家では、この出店計画を『匠』と呼ばれるスペシャリストが1人で担当しています。なかなか珍しいケースだと思いますが、職人とも言えるベテラン社員が場所から店舗の規模などを1人で考えて出店していくスタイルです」(田中氏)
 𠮷野家は、出店計画を1人で担う「匠」の技を次の世代へと継承していく必要性を痛感しているのだ。
 「いわゆる“職人の技”と言われるものをAIによって機械化できないかという課題ですが、これにはオペレーション以上の複雑なゴール設定やモデル設計、検証プロセスが必要でした」(小金氏)
 必要なデータの策定と新しい収集・加工方法を見い出していくには、「匠」=ヒトに代わって経験や感覚からデータを収集できる画像・映像解析技術の導入・活用も必要になってくる。
 講演のまとめとして、小金氏は講演のテーマ「ビジネスのAI化に向けたプロセスと見えてきた課題」について総括。
 「前提として言えるのは、AIの導入・活用で何を機械化・自動化するのかという『事業目的の明確化』が必要です。そして、必要なデータが入手できない場合、そしてヒトが経験と勘などの感覚で判断していることをどうやって定量化していくのかが大きな課題だと感じました」(小金氏)

 事業目的が、業務の合理化・効率化なのかコスト削減なのかによって今ヒトが手がけている業務のどの部分にAIを導入・活用していくのかが変わる。新たな設備、将来への投資といった経営判断が求められる最重要課題と言えるだろう。インテージでは今後も、明確になった課題をもとに具体的な施策の提案など“次の120年”へサスティナブル(持続可能)な経営を目指す𠮷野家への具体的な施策や取り組みの提案を行っていくという。

Information

イベント名
Data Science Fes 2019
主催
日本経済新聞社
期間
2019930日(月)~20191129日(金)
お問い合わせ
dsfes@nex.nikkei.co.jp