Data Scientist Fes2018オープニングフォーラム
変化の先へ
~データ利活用が生み出す社会・ビジネスと実現に向けた課題~

Data Scientist Fes2018オープニングフォーラム

11月13日(火)に東京ミッドタウン日比谷の「BaseQ」で開催されたオープニングフォーラムの講演、セッションの採録です。当日は開演の13時にまでに約400名が来場し客席は満席に、社会のデータサイエンスへの関心の高さが伺えるフォーラムとなりました。参加者へのアンケートでも8割以上が「内容に満足」と答えるなど、期待に応える内容となりました。

基調講演

デジタル変革実現に向けた日本企業の課題

データサイエンティスト協会代表理事、ブレインパッド代表取締役会長、日本ディープラーニング協会理事 草野 隆史氏

Data Scientist Fes2018オープニングフォーラム

 私は2004年にデータの利活用で企業を支援するブレインパッドを創業し、データ分析に関わってきた。ビッグデータとともにデータサイエンティストが注目され、「データサイエンティストが欲しい」とのニーズが高まる一方で、明確な定義がないとミスマッチが起こる。データサイエンティストを職業として健全に発達させるための活動として2013年にデータサイエンティスト協会を設立した。
 現在、データを活用してデジタル変革を進める企業が注目を集める。かつては石油メジャーの企業を「セブン・シスターズ」と呼んだが、現在では「データが次の石油」と言われ、世界的な経済会議であるダボス会議ではマイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグル、テンセント、アリババ、フェイスブックの7社が「データメジャー」として議論された。これらは世界の時価総額トップ10の上位を占める。優れたコンセプトのサービスを提供してユーザーを増やし、データを活用してサービスの改善・拡大につなげてきたことが成功法則だ。
 一方、日本企業がデジタル変革を進められない理由としては、IT投資を業務効率化やコスト削減に限定してきたためだと考える。「攻めのIT」と呼ばれる米国企業のようなビジネスモデルを変えるためのIT投資ではなかった。守りのIT活用では、オペレーションの副産物のデータしか集められない。顧客やサービスから生み出されるデータを活用することが重要だ。
 今後、課題を克服するために行うべきことは、次の3点だと考える。1つはITを高度に活用したビジネスモデルを構築すること。2つ目はビジネスとITの両方がわかる人が意思決定し、事業創造できる人を育てる投資をしていくこと。3つ目は分析した結果をアクションにつなげ、アジャイルにスピーディーに開発する体制を持つこと。
これらを実現するには、IT活用に対する組織的な成熟が必要で、経営の理解とリーダーシップが欠かせない。経営層、リーダーが、データに基づいたデジタル変革に挑むことで、日本企業も変わっていけると考える。

企業講演1

HR企業が描くこれからのデータ組織

パーソルキャリア 経営戦略本部 データ戦略統括部 エグゼクティブマネージャー 柘植 悠太氏

Data Scientist Fes2018オープニングフォーラム

 弊社パーソルキャリアが2年間かけて、データサイエンティストの育成や組織づくりを進めてきた事例を紹介したい。
 データ組織を作るには、まずは経営層のデータ活用に関する最低限の理解があると良いだろう。その上で「何のためにデータ活用するのか、経営層ではどのような認識を持っているのか、お客様に対してどのような価値を提供していくのか」を議論し、インプットする工程を踏んだ。経営のミッションをデータ部門に伝え、会社の方向感に沿わせていくことが重要だからだ。
 データ部門を作ったら、組織として経営に歩み寄っていく努力も重要だ。我々の場合は、データサイエンティスト飲み会と称して、役員や事業部長にデータ分析でできることを披露し、存在を認知してもらった。これはメンバーのモチベーションアップにもつながった。
 データ部門が成果貢献するには、事業部との連携が欠かせない。事業部長とのディスカッションや提案の機会を作り、事業部とコンセンサスを取ってプロジェクトを選んで進めている。アカウンタビリティ(説明責任)を果たし、成果を事業部だけでなく経営会議でも伝えている。
 データ部門を組織して成長させるには、社内で人材を育てていくことが必要不可欠だ。育成プログラムを作り、データサイエンティスト協会が定めているスキル定義を自社にあわせて使っている。現在、レベルの高い人材が育ち、組織としても底上げできていると実感する。良い人材を確保していくためには、待遇、環境、成長機会を作ることも大切だ。人と組織づくりは、一歩一歩積み重ねていくことが重要だろう。

企業講演2

アナリティクスが導くデジタル変革

野村総合研究所 コンサルティング事業本部 アナリティクス事業部 グループマネージャー NRI認定データサイエンティスト 名取 滋樹氏

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 デジタル化は、自らのビジネスモデルを変革し、事業の再成長を促すほどのインパクトを持っている。これは特定の業種に限った話ではない。本質的に大事なことは、顧客との接点を作り、そこで得られた情報に基づいて、アナリティクスを用いた新たな提案を行い、顧客との繋がりを永続化していくことである。一例として、米国の音楽業界では、コンサートの一興行企業が、チケット販売会社を買収したことで、顧客接点と情報を獲得した。このデータを活用し、顧客のニーズを適切にとらえたことで、グッズ販売、飲食販売、スポンサービジネス等の周辺ビジネスを獲得し、音楽の一大プラットフォームビジネスに成長したケースが現れている。
 デジタル変革を推進する上での難しさは、データサイエンスで確率的に正しい選択肢を導くことと、それを適切に業務に浸透させて成果をあげることの間には、一段の壁が存在することである。多くのビジネスでは、業務のプロセスに“人”が介在する。その“人”が、良い意味でも、悪い意味でも、成果に対するブレの要因になるのである。多くの場合、悪い意味でのブレは、現場への浸透活動の不足に起因し、良い意味でのブレは、想定外のユースケースが成果をあげることに起因する。デジタル変革で成功を収めるためには、ビジネス部門と密接に連携し、このような現場で発生する事象を迅速に把握し、対応策を打ち続けていくPDCAサイクルの高速化がポイントである。また、活動を一過性のものとしないためには、データサイエンスの活用自体を目的とするのではなく、成果の共有を通じて意義を組織に浸透させ、データ活用自体を組織の文化として定着化させていくことが重要である。

企業講演3

消費者行動に変革をもたらす真のAI活用

KPMGコンサルティング Advanced Innovative Technology ディレクター 山本 直人氏

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 現在、企業は大きな変化を迫られている。デジタル技術の進化を背景に、自動車業界では「100年に1度の変化の時代」を迎えているといわれており、2030年には企業デジタルトランスフォーメーションの規模が世界のGDPの1割を占めるという予測もある。そうした状況の下、AIが消費行動や社会を大きく変えつつある。
 例えばアマゾンは、究極の顧客第一主義を徹底しており、人の消費行動におけるわがままを究極的に叶えるため、ECサイト、アマゾンAlexaによる家での行動、Amazon Goによるリアル店舗での人の行動等、全方位的に人の行動をAIにて分析している。その結果、人の買い物のスタイルは激変し、消費行動に大きな変革をもたらした。
 一方グーグルでは、一日に検索される35億に上るリクエストをAIで分析し、人が欲しい真の情報獲得を支援しており、目的とする情報への到達容易性を究極的に高めたといえる。デジタル広告と連動させることで、マーケティングの世界を一変させた。
 一般消費者の視点からすると黒子として存在するAIが、ユーザーエクスペリエンス(UX)を劇的に向上させている。ユーザーの動きを高度に分析し把握することで、人が何を求めているのかを明らかにし、それをマスカスタマイゼーションに活かす企業も出てくるであろう。
 AIを活用し、人のニーズを高度に把握することは、企業のモノづくりを改革し、それは社員の効率的な働き方にも寄与し(働き方改革)、結果としてUXの更なる高度化に還元される。消費者行動に変革をもたらす真のAIとは、消費者のUX向上と企業活動の高度化、社員の働き方改革のループにおけるハブとして機能するものである。
 近未来的には、モビリティ社会の激変により、人のモビリティに対するニーズは多様化し、人の生活はさらに大きく変化するといえる。モビリティを取り巻く様々な産業、ITプラットフォームが連動するエコシステムが形成され、UXはさらに高度化されるであろう。エコシステムの中心にあるのは間違いなくAIである。AIは様々なITプラットフォームと連動し、モビリティ社会における人のニーズを的確に分析する存在となるであろう。
 現在、データサイエンティストは、目の前のデータを高度に分析し、インサイトの導出を求められているが、次世代のデータサイエンティストは、エコシステムをデザインし、その中での自社のとるべきポジションを見出し、AIをコアとして企業と消費者を繋げUXを最大化させることが求められるのではないだろうか。激変の時代において、企業が世界レベルの競争力を得るためには、顧客と企業全体のWin-Winな環境を構築できるサクセスマスターを育成することに掛かっている。

特別セッション

産学連携で進めるデータサイエンティスト育成

司会:笛田 薫氏(滋賀大学 データサイエンス学部・副学部長)
竹村 彰通氏(滋賀大学 データサイエンス学部長)
町田 大樹氏(SMBC信託銀行プレスティア ディシジョン・マネジメント部長)
米元 雅裕氏(東レエンジニアリング エレクトロニクス事業本部 第三事業部技術一部長兼事業企画室長)

Data Scientist Fes2018オープニングフォーラム

■大学と企業、データ解析の産学連携の取り組み
竹村:滋賀大学は日本初のデータサイエンス学部を2017年4月に開設した。本学ではデータサイエンティストを「情報学と統計学の知識とスキルを身に付け、新たな知見を得て価値創造できる人材」と位置付けている。価値創造には企業や自治体との連携が必須で、既に50以上の団体と協業している。
社会人のスキルアップの要望も強く、2019年4月に大学院研究科修士課程を創設する。
町田:SMBC信託銀行プレスティアは、SMBC信託銀行がシティバンク銀行のリテールバンク事業を取得して統合した。シティバンクには20年前からデータ分析をする専門部署があり、経営陣の意思決定を支援してきた。現在は業務に活用するデータ分析を行っている。滋賀大学とは研究連携の他、私自身、講義も担当している。また、夏の1ヵ月間、インターンシップとして学生を受け入れ、データ加工処理から営業支援ツールの開発まで実施した。
米元:東レエンジニアリングは、滋賀に技術の開発拠点があり、地元企業として大学と共同研究を進めている。システム製品では大量のデータを扱っているが、ビジネスの課題が複雑で解決が難しい。現在、品質検査や装置の稼働予測など4つの共同研究テーマを進めている。実データを使って先生方と共に学ぶことができ、非常に有効だ。今後、分析モデルで出した結果をフィードバックし、不良品の低減、精度向上に役立てていく。

■企業からの期待と人材育成の役割
司会(笛田):産学連携によるデータサイエンス教育の特徴とは何か。
竹村:学生には社会に出てから直面する実践的なデータの分析を経験させたい。現実的な課題を体験できるよう、企業からデータを提供いただきたい。
米元:企業は生のデータは出しにくいと考えるかもしれないが、共同研究で実データを使って分析手法を提示いただき、大変、参考になった。また、製造業について関心を持ってもらい、データサイエンスを学んだ学生さんに来て欲しいと考える。
司会(笛田):企業から大学への要望はあるか。
町田:共同研究により専門的な助言や成果物をいただき、データのプロとしてデータから読み取る力が素晴らしいと感じた。先生方が忙しい時期もあるが、定期的な打ち合わせを持つなどして進めていけるとありがたい。
竹村:現在、企業からのニーズが強く、ご相談が増えているため、スタッフの強化に努めている。単にアカデミックなデータサイエンスだけでなく、社会への実装をして日本の経済発展に貢献するデータサイエンスを目的に、今後も共同研究を強化していきたい。