日本発「やさしい」DX実現へ

在宅勤務やオンライン会議などの「新常態」が進んだことで、これまで当たり前だった仕組みや働き方などが刷新されつつある。内閣官房参与として菅義偉首相のデジタル改革戦略アドバイザーを務める慶応義塾大学の村井純教授に、DXを全国に普及することで何が変わるか、デジタル技術を生かす日本ならではの道はあるのか、MM総研の関口和一所長が聞いた。
本コラムは2020年12月15日日本経済新聞朝刊掲載 広告企画「DXの地平」を採録したものです。

目次

デジタルデバイドなくしたい

慶応義塾大学 教授 村井純氏

1979年慶大卒、84年同大学院工学博士課程修了。同年、大学間ネットワークJUNET設立、88年インターネット研究の先駆けWIDEプロジェクトを設立し代表を務めるなどインターネットの整備・普及に尽力。97年から慶大教授。内閣ほか各省庁委員会の主査などを歴任し2020年内閣官房参与に就任。65歳。

ユーザーへの配慮は大切です

〈インタビュアー〉MM総研 代表取締役所長 関口和一氏

1982年一橋大卒。日本経済新聞社入社。米ハーバード大学留学、米ワシントン特派員、編集委員などを経て、2000年から15年間、論説委員として主にIT分野の社説を執筆。09~12年NHK国際放送コメンテーターや12~13年BSジャパン「NIKKEI×BS Live 7PM」メインキャスターなども務めた。19年現職。61歳。

対談

20年間インフラ先行 進まなかった「利活用」

関口2001年にe-Japan戦略がスタートして約20年、今年は大きな動きがありました。 村井コロナ禍を背景に、これまでできなかったデジタル改革が進み始めました。菅首相は、平井卓也デジタル改革担当相をシングルミッションにしていますね。これはやはり菅首相の強い思いの表れでしょう。私はデジタル戦略を法律面で検討するワーキンググループの座長として平井担当相の指揮下、IT基本法を20年ぶりにつくり直します。 関口コロナ禍が始まる前からDXは話題になっていましたが、この社会状況の変化で、改革への合意形成も進むのではないでしょうか。 村井多くの人が新しい経験をしたのではないでしょうか。これまで使ったことがない人もオンライン会議を使っているんですよね。これはやはり強烈な体験でした。 関口外出自粛で在宅の人が増えたために家庭からの通信トラフィックが急増しているはずですが、回線は大丈夫でしょうか。 村井インフラの整備についてはしっかり整っています。最近の高解像度カメラ映像を大量に送っても、家庭用光ファイバー通信サービスはびくともしていないんですよ。家庭へのダウンロード用回線は太くても家庭から出る回線は細かったのに耐えている。モバイル用「LTE」(4G)規格も十分なスペックを保っていた。これだけのインフラを持っている国はそうありません。ところが、データの利活用についてはつまずいているわけです。 関口新型コロナ対策では様々な課題が浮き彫りになりましたが、特に行政サービスがデジタル化されていないこと、世界からの遅れが指摘されました。 村井このデジタル敗戦ともいえる状況を反動にして、菅内閣は霞が関を変え、地方行政を変えていくはずです。昔からいわれていたインターネットの恩恵を誰もが享受できるデジタル社会へ、ようやく走り始めたといえます。 関口日本の強みであるデジタル技術を活用したDXへの準備が進んでいる分野と出遅れている分野の差が激しいですね。 村井特に官公庁のデジタル化。ここが一気に動きだすでしょう。

行政システム共通化 ノウハウ中央から地方へ

関口コロナ禍で、各省庁の施策が横でつながっていないことに加え、国と地方、さらに都道府県と市町村もつながっていないことが明らかになりました。 村井地方行政が独自性を持って互いに政策を競い合うこと自体は大切ですが、それを実現するためのデジタルデータ、通信などの環境は別の議論です。地方自治の名の下に、個別にシステムをつくってきた問題が一気に噴出しましたね。中央官庁で働く人たちはもはや全員デジタル化の遅れを痛感していますから、あらゆる業務を大胆に見直せるはず。新しい業務形態や組織などすべてを包括できるよう、行政システムを共通化する必要があります。 関口全国レベルでデジタル化を設計するにあたって特に重要なことは何でしょうか。 村井中央官庁の完全なデジタル化、および自治体業務との接続、この2つを設計し直すことです。もちろんアウトソースも一元管理。しかもそれらを自分たちの手で運用してほしい。手始めにデジタル庁には、省庁全体のネットワークシステムをデザインできる人材を集めてもらいたいですね。つまり、現場の業務の優先順位や課題を判断できて的確にアウトソーシングもできる、新しい仕組みを組織内に浸透させるITリーダーを育てるのです。自分たちで開発すると、手順や課題解決のノウハウが蓄積できる。エンジニアとの情報共有のポイントもわかる。ここが一丁目一番地です。デジタル化へのデザインができる人が育ったら今度はその人たちに地方行政システムのデザインをしていただきたい。 関口ノウハウを中央から地方へ伝えようということですね。 村井デジタル化の全体像を理解した人たちが、地方行政の独自性を生かしながら政府のシステムと接続できるようにする。これが実現できれば地方の多様な行政サービスがすべて同じ基盤で動くようになり、様々な連携・協働や不足するリソースの補完が容易になります。新たに発生する不測の事態にも、すばやく対応できるようになるはずです。

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DXの地平 ー岐路に立つ日本ー

本コラムは日本経済新聞掲載 広告企画「DXの地平」を採録したものです。