社会の構造変革 デジタル庁創設で加速

世界規模で広がるデジタルトランスフォーメーション(DX)がビジネスや社会を一変しようとしている。技術力がありながら、デジタル変革で後れを取る日本は今、岐路に立たされている。政府が創設を目指すデジタル庁は、Well-Being(幸福)な社会への転換をどう促す のか。政府首脳や有識者、様々な業界団体などに取材し、DXが導く10年後の新しい地平を展望する。
本コラムは2020年12月15日日本経済新聞朝刊掲載 広告企画「DXの地平」を採録したものです。

目次

新たな経済成長の原動力に

MM総研 代表取締役所長 関口和一氏

「2年分のデジタルトランスフォーメーションがわずか2カ月で実現した」。新型コロナウイルスが拡大した4月、サティア・ナデラ米マイクロソフト最高経営責任者(CEO)の言葉が話題となった。日本では「20年間進まなかった社会のデジタル変革が2カ月で進んだ」といえる。

テレワークやオンライン診療、遠隔授業、電子申請などいずれも将来普及すると思われたが現実は違った。法規制や商慣習などを理由に変革を拒む力が働いたからだ。そこに突破口を開いたのが新型ウイルスだ。緊急避難措置とはいえ、見方を変えれば、未来社会の姿を先取りした。

例えば都心のオフィス。感染拡大の第3波で、大手企業では今も在宅勤務が7割近くに上る。不動産業者は「賃貸契約の更改が心配」というが、オフィスに複合機や家具を納める事務機器メーカーにとっても悩みの種は同じだ。

オカムラの中村雅行社長は「在宅勤務に針が大きく触れたが、どこまで戻るか見極めることが重要だ」と話す。同社は位置情報がわかる電子タグを社員に持たせ、効率的なオフィス家具の配置を研究している。デジタル技術によりポストコロナに備えた働き方改革を目指す試みだ。

「もはやオフィス空間にとらわれてはならない」と指摘するのはコニカミノルタの山名昌衛社長だ。テレワークに伴う紙文書の減少は同社には死活問題だが、「10年後の社会を想定し、そこからバックキャストして戦略を練る必要がある」と言う。サイバー空間でも働ける環境を今から構築すべきというわけだ。

利活用促すIT政策

デジタル時代の働き方改革に向け政府も重い腰を上げた。河野太郎規制改革相らが打ち出した押印廃止や、株主総会に物理的な会場の設置を求める法規制の撤廃などだ。紙の文書があるから習慣的にハンコを押すわけで、「電子化されれば押印も不要になる」と河野氏は主張する。

極め付きは菅義偉首相が掲げたデジタル庁の創設だ。IT(情報技術)政策における行政の縦割りを排し、システム調達を一本化することで、民間部門と政府のデジタル化を促そうという戦略だ。

実はこうした試みは1990年代末の橋本行革でも検討された。当時の通産省の情報部局と郵政省の通信部局を合体した「情報通信省」の創設だ。結局、郵政省は自治省と総務省になり、IT政策における経産省と総務省の二元体制は今も解消されていない。

あらゆるものがネットにつながるIoTや自動運転などが登場すると、国交省や警察庁、厚労省などもIT政策に関わるようになった。そこに横串を刺そうというのが菅首相の思惑である。

特別定額給付金の支給などを巡り、省庁間や自治体との間が十分につながっていない事実も判明した。各省庁がシステムをバラバラに発注してきたことに起因する。

米国では「GSA(政府調達庁)」がシステムの仕様作成から調達運用まで一元管理しており、英国でも2000年に調達が一本化された。日本はデジタル庁で行政システムを一元化する計画だが、各省庁や情報機器メーカーからの抵抗も予想されよう。

デジタル変革はインターネットが登場した1990年代後半にも米国で広がった。アマゾン・ドット・コムやグーグルの登場はその象徴だ。2010年代には人工知能(AI)や自動運転技術などが実用化され、IBMのワトソンや電気自動車のテスラなどが注目されるようになった。

日本は01年の「e-Japan戦略」で通信基盤の整備は進んだものの、その利活用を目指した「IT新改革戦略」は、当時の安倍晋三首相の退陣などで実現できなかった。さらに政権交代や東日本大震災などが重なり、安倍第2次内閣の「世界最先端IT国家創造宣言」までIT政策の空白期間が続いた。

その間、日本は米国での技術革新をとらえきれず、AIやビッグデータに目を向けたのは16年の「第5期科学技術基本計画」からだ。米国に7年遅れたといえる。

そうした中、新型ウイルスは日本のIT化を一気に進め、デジタル庁はその大きな後押しとなろう。いわばコロナ禍とAIなどの新技術はDXを促すクルマの両輪。そこであぶり出される様々な社会課題をデジタル技術で解決することが、日本の新たな経済成長を促す原動力となる。

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