Data Scientist Fes2018クロージングフォーラム

Data Scientist Fes2018クロージングフォーラム

12月14日、Data Scientist Fes2018(DSFes2018)に協賛、後援、登壇者および、企画趣旨に賛同した企業や大学、団体等の関係者を招いたクロージングフォーラムが行われた。DSFes2018の開催報告、日本のデータ人材育成をより拡大するための新たな試みの紹介、日本がデータエコノミーをより発展させてゆくための提言、データサイエンティストを目指す人材へのエール等、「産官学のプラットフォーム」となるようなコンテンツは、DSFes2018の総括にふさわしい盛り上がりを見せた。

アカデミアから発信するデータサイエンス教育

東京大学数理・情報教育研究センター特任教授、明治大学先端数理科学インスティテュート所員、統計数理研究所 名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授 北川 源四郎氏

Data Scientist Fes2018クロージングフォーラム

 教育分野における研究スタイルが変化する中、大学教育も大きく変わろうとしています。その一つの典型がデータサイエンティスト(以下DS)の育成であり、データのリテラシーの涵養(かんよう)です。アメリカでは2005年頃から統計教育が盛んになり、教える大学も増加しました。学位授与者数も03年頃1000名程度だった年間の修士号が現在では4000名をはるかに超え、600名程度だった学士号も4000名近くにまで増大しました。さらに、オバマ・データサイエンスイニシアティブが発表された12年頃からは欧米でDS教育プログラムが次々に立ち上げられ、現在は600近くのプログラムが進められています。
 こうした世界の動きに対し、日本学術会議も14年、データ中心科学を専門とする教育組織の設置などを柱とした「ビッグデータ時代に対応する人材の育成」を提言しました。その後の産学官懇談会により、年間約50万人の全大学生へのデータリテラシー教育や、500人の棟梁レベル(組織におけるビッグデータ利活用を先導できる)の人材を育てる等の目標を定めています。
 文部科学省のDS人材育成事業においては、東京大学は北海道大、滋賀大、京都大、大阪大、九州大とともに「数理及びデータサイエンスに関わる教育強化」の拠点校に選ばれ、そのミッションとして新たに「数理・情報教育研究センター」を立ち上げ、学部横断型の教育プログラムを12科目開講しました。同時に「東京大学データサイエンス・イニシアティブ」を開設し、データサイエンス関連講義の可視化・構造化へ向けた取り組みも始めています。当センターではこのほかにも、eラーニング教材の公開、大学間協力によるデータサイエンス入門シリーズの編纂(19年秋刊行予定)、産業界コンソーシアムである「東京大学数理・データサイエンスコンソーシアム(UTokyo MDSコンソーシアム)」の設立などを行っています。6つの拠点校は、それぞれのミッションを進めるとともに、全国的なモデルとなる標準カリキュラム、教材、教育用データベースを協働で作成し、数理・データサイエンスの全大学への普及に取り組んでいます。
 ビッグデータの登場で社会もアカデミアも転換期を迎えた今、その転換の原動力になるのがデータサイエンスです。各国でそれに合わせたプログラムが構築される中、遅れ気味だった日本もようやく本格的な取り組みがスタートしたところです。

 最後に全国788大学に行った「数理・データサイエンス教育状況調査」の速報版(講演時点の回答率57%)を紹介します。あくまでも速報ですので、今後、数値や解釈が多少変わる可能性があることをお含みおきください。

「教養教育における数理教育の実施状況」
 全大学の70%で基礎数理教育(全学対象または学部単位)を実施。ただし全学対象では48%。23大学が今後の導入を予定している。学部別では、医療健康が最も多く、社会科学、医学・歯学、工学、人文科学と続く。
「教養教育におけるDS教育の実施状況」
 全大学の53%で基礎DS教育(全学対象または学部単位)を実施。ただし全学対象では37%。37大学が今後の導入を予定している。学部別は、数理教育とほぼ同様。
「専門教育におけるDS教育の実施状況」
 全大学の67%(全学対象または学部単位)で実施。ただし全学対象では15%。一方、DS科目を提供する学部を持つ大学は60%に上る。33大学が今後の導入を予定している。1学部の大学の導入率は45%で、学部数の増加とともに上昇し、6学部以上では97%とほぼ全大学でDSを提供する学部を持つ。学部別では、社会科学が最も多く、医療健康、工学、人文科学と続く。
「教員および数理・DS関連の教育研究組織等の設置状況」
 DS教育に関する推進組織を設置している大学は49校、設置予定校は26校。DSの研究組織を設置している大学は27校、予定校は15校。

 ビッグデータの登場で社会もアカデミアも大きな転換点に差し掛かっています。その原動力になっているのがデータサイエンスやAIであると言っても過言ではありません、世界に対し多少遅れ気味のスタートとなった日本ですが、ここ数年で非常に良い体制が整うのではないかと考えています。

ミニトーク

ビジネスの第一線にデータ女子を増やすために!

Data Scientist Fes2018クロージングフォーラム

栗原理央氏(ブレインパッド データサイエンティスト)

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後藤真理絵氏(ヤフー サービス統括本部マーケティング&コミュニケーション本部)

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司会:データサイエンティストを増やしてゆくために避けて通れないのが、女性が活躍する職種としての認知と啓蒙です。。女性ならではの強みはどんなところになるか、ビジネスの第一線でどのような活躍ができるかなどを、文字通り第一線で活躍中のデータサイエンティストお二人にお聞きしてゆきます。

■データサイエンティストを目指したきっかけは?

栗原:学生時代は工学部で生命化学を専攻しつつ、一方で学生向けのデータ分析コンペやDSのインターン等に参加していました。後者を仕事に選んだのは、対ヒト、対データだけでなくその両方が必要なところに魅かれたから。分析コンペでサッカー関連のデータを扱い、好奇心の幅も自然と広がりました。新卒で入社し3年目ですが、総合電機メーカーの将来予測や通販比較サービスにおける自然言語認識、小売りメーカーの需要予測のための画像認識など幅広い仕事を担当させていただいています。

後藤:私がDSになったのは、これまでのキャリア(広告会社系の制作会社や通信会社系のポータルサイト)において多変量解析などの統計解析からデータサイエンスの知識を深めていく中で、ちょうどビッグデータの重要性が言われるようになり、それが扱えそうなヤフーに転職したのがきっかけです。DSに求められるスキルセットであるビジネス、データサイエンス、データエンジニアリングのうち私はビジネスの部分に主軸を置き、現在はマーケティング分野のデータ分析や効果検証などを行っています。

■仕事で女性ならではの視点が活かされることはあるか?

栗原::周りの女性社員も含め、女性だから違う見方をしようということはほとんどないと思います。ただ弊社が扱っている業種は幅広いので、例えば化粧品やアパレル系などの仕事をする時はユーザーの視点を持ち込みやすいという利点があります。

後藤:私もあまり女性だからということはないと思いますが、男性が化粧品や下着メーカーの仕事をしている時など、女性の購買行動を解説してあげることがあります。DSはビジネス課題をどう理解するかが重要ですが、ビジネス寄りの人はそれをデータでどう解決したいかうまく言語化できない場合が多いので、そのパイプ役になることは多いと思います。

■女性のデータサイエンティストの活躍の場を広げていくためには?

後藤:ビジネス系の人とデータサイエンス系、エンジニア系の人は、双方の課題がわからない部分があるので、弊社の場合は人材交流によって解決しようという取り組みを行っています。社内留学のようなもので、例えばビジネスサイドの社員がデータサイエンス系の部署を兼務して業務を行うといったことがあります。データサイエンス系の研究領域について、会社に勤めながらも博士課程取得を目指したい場合、会社が進学費用を一部負担するなどの支援体制も整っています。

栗原:そういう福利厚生の充実とともに、私が思うのはDSをひとくくりにしないでほしいということ。例えば機械学習のモデリングであったり、意志決定を支援するようなマーケター寄りのアナリストであったり、データエンジニアであったり、もう少し細かい粒度で仕事内容を明確にしてくれると手に職がつきやすいのかなと思います。そうでないと、仕事の範囲が広くてなかなかライフステージが上げられないのではないのかなと。

後藤:よく学生など年下の女性からどうしたらDSになれるかと相談を受けるのですが、DSにもいろんな職種があるんだよという話をし、まずは自分で興味があることから始めるみたいなマイプロジェクトを勧めます。私自身、一般的な統計解析の教科書やセミナーの解析事例では「自分の実務でどう使うのか?」とピンとこないことがあったのですが、マーケティングリサーチでの満足度調査やキャンペーン効果測定の分析業務の中で、多変量解析などの統計解析を先輩から教えてもらいました。こうした実務を通じてデータがどのように処理され計算されるのかを理解し、データがどうビジネスにつながるのかという想像ができるようになりました。

栗原:私も趣味でものを作るのが好きで、いま麻雀牌を深層学習で自動認識するプロトタイプを作っているのですが、それはやはり自分が興味があるからできるのであって、そうでなければ続かないと思います。

司会:データサイエンティストに限らず今や働き方自体、男女の区別はなくなってきています。とは言え、データ分析に“女性ならではの視点”が求められることは必ずあります。ビジネスの第一線にデータ女子をさらに増やしていくためにも、学生など早いうちからデータリテラシーを身に付けることが、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。

スペシャル トークセッション

データエコノミクスを担う人材が溢れる日本に向けて
~データサイエンス×AI×ディープラーニング~

Data Scientist Fes2018クロージングフォーラム

シバタ アキラ氏(DataRobot Japanチーフデータサイエンティスト、データサイエンティスト協会・理事)

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佐藤 聡氏(connectome.design代表取締役社長CEO、日本ディープラーニング協会・理事)

Data Scientist Fes2018クロージングフォーラム

川口 恭弘氏(TIS サービス事業統括本部AIサービス事業部AIサービス企画開発部長、AIビジネス推進コンソーシアム・教育・育成ワーキンググループグループ長)

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ファシリテイター 杉本 昭彦氏(日経BP社 日経クロストレンド開発長・日経クロストレンド副編集長)

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■データ分析、AI人材へは投資は必要か

杉本:いま企業の現場でデータ分析やAIを担う人材がいかに必要か、どう育てていけばいいか。私個人の考えとしては、最近ようやくデータ分析やAIに対するハードルが下がってきたなと感じており、それほど必死に人材を確保しなくても大丈夫なのではないかと思っていますが、3団体それぞれの立場でお話いただけますか。

シバタ:日本企業はデータサイエンスやAIを、どうビジネスに応用できるかということに対して、とても興味が旺盛です。私の顧客にも、成功、失敗を含め多くの事例があります。それらのパターンを見て思うのは、これから始めようという時に初心者だけでは難しいということ。やがて誰にでもできる世界になるとは言え、現状では予測モデルを現場に実装してビジネスを変えた、もしくはインパクトを生み出したという経験のある人がいるかどうかが重要です。例えばデータ活用テーマを設定する際も、最初は事業に関係しているテーマであれば手広くやるということではなく、少数のキーになるテーマにフォーカスし、成功事例をつくりにいくことが重要です。

佐藤:そういう人材が足りていないとよく言われますが、そう言った方が世の中がざわざわして面白いからということも多分にあるのではないでしょうか。ITの時も人材が20万人足りないといわれましたがそんなことはなかった。最初は足りないかもしれないけれど、そのうち新しいツールも出てくるし、コモディティ化によってできるようになる部分も増えてくるからです。そこを突破するのがサイエンティストであり非常に進んだエンジニアだと思いますが、年齢的なものがあり、シニアのエンジニアが新しいことに取り組みたいと思ってもなかなかそうはできない現実があります。ではどうするかというと、総合力や構成力を活かしてコンサルティング的な役割になる。そういうふうに、役割は世代によって変わってくるのではないかというのが実感としてあります。だからといって人材を育てなくていいのかではなく、投資はした方がいいと思っています。

川口:データ分析やAIを使うことで大事なのは、それによって何がしたいのかを明確にすることです。そして、その課題を解決できる人材は、多くの場合会社の中にいて、データサイエンスの本当に先端のところを専門家に任せればいいと私は思っています。そういう意味で、基本的なことは日本ディープラーニング協会のG検定やE検定、データサイエンティスト協会のスキルガイドラインなどに準拠して社内で人材を育成したほうが手っ取り早いのではないかと思っています。その上で、基礎的なことをわかっている人は外から採用すればいい。

■データ分析、AIのプロジェクトマネジメントの重要性とは

シバタ:モデルを事業実装することを目的とした機械学習やAIの観点から言うと、社内での内製化はとても重要です。分析する人材や手段の質が高くても、結果はデータの質に大きく依存します。また、解決したい問題がそもそも予測可能性があるのかの判断も重要です。データサイエンスを社内で行い、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回しながらアジャイルな分析を行えば、段階的にデータの質を高めたり、早期に実現可能性の低いテーマを中止することが可能になります。まだ定説化していないデジタル変革の活動の中においては臨機応変に動ける社内人材が重要な役割を担います。

佐藤:内部に技術者が多い米国ではそうだと思いますが、その理由があると思います。日本でもそういうふうにしたいとは思っていても、当然コストの問題がある。ビジネスである以上は、サイエンティストやエンジニアは社内にいるに越したことはありません。PDCAについても内製の方が都合がよいし、どこにどういうデータがあり、誰を動かせばいいかといったことも容易に進められます。ただし、それを行うためには中に居る人材こそが重要で、縛られることを嫌う今の若い人たちはなかなか適さないのではないかという印象です。そういう意味で、働き方を変えていくということも企業にとって大きな課題になっていると思います。

川口:人の流動化というのは私も強く感じています。最近は大手企業でデジタルやAIに関する部署を新設する動きが盛んですが、担当者に話を聞くと、内製化、クラウド利用、アジャイル開発という3つのキーワードが必ず出てきます。そういう意味では内製化が急速に進んでいる状況です。ただそれらの企業は、概して担当役員などの理解があるからという印象が強く、それがないとなかなか進まないのだろうと思います。

■データ分析、AIのパートナーは実績豊富な方がよいか

川口:この分野はまだ産業として未成熟な部分が多く、技術者のレベルもさまざまです。しかしそのバラつきも、コモディティー化によって次第に減っていくことが過去のITの例を見てもわかるので、パートナー企業側としては、社内教育やプロダクトマネージメントなどについて今までのシステム開発とは違う方法論の整備に取り組むことも大事だと思っています。

佐藤:ディープラーニング協会に関して言うと、正会員の要件は決まっていますが、それを満たしていても実績が豊富というわけではありません。企業ごとに提供するサービスも違うので、その点も含めてきちんと評価することが大事だと思います。

シバタ:データロボットの仕事はいろいろな顧客があり、業種も幅広く、それが面白いところであり、難しいところでもあります。大事なのは、その企業やインダストリーにどれだけ興味を持てるかということ。そして、性格は内向きでも外向きでもいいから、自分の提供する技術が使われて何か面白いことが起こる、そこから価値が生み出されていくということに喜びを見いだせるかどうかが非常に重要だと思っています。

杉本:仕事の定義や、この人材がどのようなプロダクトに向いているかなどをしっかり見極めることが大事だし、インダストリー別のような分担もできれば、さらに深く求めていけるのではないかと思います。まだスタートしたばかりと言えるデータ分析やAI人材の育成ですが、そのステージはどんどん変化しているということですね。本日はありがとうございました。