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“データ”が創る社会とキャリアを知る一日

―― Data Science Fes 2019 Student Academyから(学生レポート)

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<キーノートセッション>
企業の声から読み解く!
AI人材ブームの中で勝ち残る人材とは!?

株式会社POL 代表取締役CEO 加茂 倫明氏
パナソニック株式会社
ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター デザインシンキングAI開発部
部長 井上 昭彦氏

データサイエンスやAIを学ぶ若手を育て、輩出していく取り組みに必要なこと

加茂 倫明氏

 本セッションでは、理系学生向けの就活サービスや産学連携のマッチングサービスを提供しているPOL(ポル)創業者・代表取締役CEOの加茂氏がパナソニックのAIソリューションセンターの井上氏と登壇されました。講演前半は、現在も東大工学部在学中という加茂氏が設立したPOLのビジョンとサービスの特徴、魅力などについて紹介。

 「『LabBase』は、理系の学生に特化したスカウト型の就活支援サービスで、リリースから約2年半で約2万人の理系学生さんと約150社の企業さんにご利用いただいています。研究内容を中心とした学生のプロフィール情報があるデータベースに企業がアクセスし、プロフィールを見て自社に合うと思った学生にスカウトメールを送ることができるというのが大きな特長です」(加茂氏)

 「理系の先輩が『研究が忙しすぎて、就職活動をできない』と言って推薦でいける会社に適当に就職を決めようとしているのを見たのが起業のきっかけでした。そこから調べていくと、就活のために研究を中断せざるを得ないだけでなく、研究に必要な機器や材料の活用方法がうまくいっていないことや、研究をするための予算が少ない、実験データの管理がアナログであるなどヒト、モノ、カネ、情報の4つのカテゴリーそれぞれで、研究課題が山積みだと知りました。こうした課題解決に役立つサービスとして送り出したのが『LabBase』であり『LabBase X』です」(加茂氏)

 「LabBase」が自分のスキルを活かせる企業を探す学生と専門性の高い理系学生を求める企業をマッチングするのに対して、「LabBase X」は研究シーズを持っている大学の研究者と新規事業創出の視点からの技術を探す企業をマッチングします。POLと加茂氏が目指すのは、研究者の可能性を最大化するともに科学と社会双方の発展を加速させていくことです。研究者の活躍の場がもっと広がったら良いなと私自身も思っていました。この取り組みは、データサイエンスやAIを学ぶ学生や研究者をどう社会で活躍できる人材へと育成していくかという課題に対する1つの答えと言えるのではないでしょうか。

創業101年の老舗企業が、AI活用のトップランナーになるカギは“くらしアップデート業”への進化と発展

井上 昭彦氏

 セッション後半は、パナソニックの井上氏にバトンタッチ。「AIとは何か?」という問いかけへの答えとして、井上氏はウェブブラウザーのMosaicを発明したマークアンドリーセン氏の言葉「Software Is Eating the World」を紹介しました。

 「これからのイノベーションは、ソフトウエアによる価値提供によって実現すると考えています。アメリカのテスラという自動車メーカーは革新的なモデルの開発で定評がありますが、同社はソフトウエアをアップデートすることでまるで新しい商品を開発したかのような進化を実現しています。これはソフトウエアがリアル世界にも進化をもたらすという実例の一つです。以前のソフトウエアはプログラミングの結果に対してデータをインプットしてアウトプットを得るのに対して、AIや機械学習を活用するとインプットとアウトプットを入力として必要なソースコードやライブラリーが生成されるようになるのです」(井上氏)

 井上氏は、AIや機械学習がリアル社会を変えていく「Cyber Physical時代」が到来していると言っています。今のパナソニックはPhysical(モノづくり)の部分を強みとしているとのこと。

 「創業101年で培ってきたPhysicalが強いカンパニーだからこそお客様との接点を持ち、膨大なくらしのデータを価値に変えることができる立ち位置にいるし、幅広い事業領域に関する専門知識もあります。AIや機械学習のCyberの技術をパナソニックのPhysicalの強みにかけ合わせて活用することで、暮らしを豊かにしたり社会の課題解決に役立てていくというのがこれからのパナソニックが向かう方向です」(井上氏)

 パナソニックでは、現在、暮らしをより良くするためのブループリントである「HomeX」の第一弾商品である「HomeX Display」を開発し、既に100棟以上のお客様に販売しています。また、自動運転車を活用した「MaaSシステム」を開発し、パナソニックの本社事業所内において社員向けのライドシェアサービスを開始しています。

 また、「くらしアップデート業」を目指すパナソニックが、特に力を入れているのがAI人材の育成と積極的な外部からの登用です。

 「立命館大学とのクロスアポイント制度を活用した取り組みや、世界の著名なAI研究者との共同研究のほかに、シリコンバレーに『Panasonicβ』を設立して最先端のAIや機械学習技術を『HomeX』をはじめ具体的な商品・サービスの開発に応用していく取り組みも進めています」(井上氏)

 もはや1社だけで革新的なイノベーションを起こしていくのは、難しい時代なのかもしれません。日本を代表するパナソニックでさえもオープンイノベーションに力を入れていることを知りました。

 セッションの最後には、POLの加茂氏が再び登壇。パナソニックにとってのAI人材の重要性やAI人材として活躍していくためのヒントについて井上氏に質問しました。井上氏からは、老舗企業のイメージが強いパナソニックでも雇用される人材のうち約半数が中途採用という現状を踏まえて、1社だけに留まらないキャリアアップのやり方もあるとのアドバイスがありました。またパナソニックのような大規模な企業で希望する分野で活躍できるのかという質問に対しては、次のように回答。

 「パナソニックには30以上の事業部ありますから、その中には皆さんがやりたい分野があると思います。さらに、AIのプロジェクトの多くはR&D(研究開発)の段階であり、組織横断型で活躍してもらえるチャンスはあると思っています」(井上氏)

 そして、すでにAIを学んでいたり、これから学ぼうと考えている私たち学生へ井上氏からメッセージがありました。

 「今日紹介した通り、世の中はソフトウエアにより多くの価値が提供されている時代。世の中をよく見て、今何が起きているかを知るアンテナをはってほしい。そうすれば研究室や企業を選ぶ基準がわかります。そして世界トップを常に意識してほしい。研究する内容も、将来、起業を考えるにしても世界トップを目指してもらいたいと思います」(井上氏)

 独自開発のサービス提供を通して研究者の可能性を最大化すべく研究課題のテクノロジーによる解決を目指すPOLと、創業101年の老舗企業からAI活用のトップランナーを目指すパナソニック。ともに豊かな社会を築くことに貢献しながら、私たち学生にその将来を支える存在として成長していってほしいという思いが伝わってくるセッションでした。

<キーノートセッション>
AIを使いこなすテクノロジー人材
のキャリアと学び

パーソル イノベーション株式会社 TECH PLAY Company事業責任者 片岡 秀夫氏
株式会社ディー・エヌ・エー
AI本部AIシステム部 MLエンジニアリンググループ グループマネージャー 加茂 雄亮氏
リンクトイン・ジャパン株式会社 蛯谷 敏氏

研究のための研究ではなく
事業化を想定したAI開発を

 セッションでは冒頭、ディー・エヌ・エーの加茂氏が同社のAI事業の概要と最新の成果を紹介しました。

 「ディー・エヌ・エーはゲーム、エンターテイメントなど多角的な事業領域で他社とのアライアンスを積極的に進め、新しいビジネスを創造しています。その一環として2010年、
 AI活用ビジネスに着手し、大規模データをもとに活発な事業を展開しています。当社の特長はこの豊富なデータ基盤です。大規模なデータ基盤とサービス、AI技術をシームレスに連携させ、強固なビジネス構造を構築しています。これを支える人材も豊富で、コンピュータービジョンを専門とする研究開発エンジニアをはじめ、データ分析で課題を持つ世界中の企業がコンペションを開催し、最適モデルを競い合うプラットフォーム『Kaggle』で実績を残すデータサイエンティストが在籍し、日本有数のKaggler集団と認識されています」

 AI関連プロジェクトとしては、音声合成技術を導入したバーチャル警備システムのほか、空間情報を地図情報に置き換える技術、プロ野球チーム・横浜DeNAベイスターズをAIで強化するプロジェクトなどが紹介されました。併せて、「ディー・エヌ・エーは研究機関ではないため、研究のための研究は行わず、少なくとも数年先を見越した事業に着手する」というビジョンを強調しました。

AI時代に求められるのは、
「問い」を持ちデータを深堀りする視点

蛯谷 敏氏

 次に登壇したのはリンクトイン・ジャパンの蛯谷氏。ビジネスチャンスや人材を発掘する新しいSNS、リンクトインが世界で注目される現状を紹介しました。

 「リンクトインは、就職先やビジネスチャンスを発掘するツールとして世界で活用されているSNSです。企業で活躍するプロフェッショナルや、その予備軍である学生の皆さんが情報交換する場として、英語圏を中心に世界で6億人以上、日本国内でも200万人が参加しています。その特徴は、ビジネスに直結するキャリア情報にダイレクトにアクセスできることです」
 
 さらに、蛯谷氏は、学生に向けてリンクトインがどんな価値を持っているのかも語り、「皆さんはご自分のキャリアを明確に想定されているものと思いますが、そのような方々に最適なツールであると自負しています」と述べました。

技術系人材の細分化・グローバル化を実感する学びの場
TECH PLAYを運営

片岡 秀夫氏

 続いて、パーソル イノベーションの片岡氏が自社のAI分野の人材開発・育成の取り組みを解説しました。

 「パーソル イノベーションはHRの新規事業開発を進める企業です。その一環として、テクノロジーに関する勉強会、セミナーなどの情報拠点『TECH PLAY』を運営しています。AIを中心にした技術系人材は専門化とグローバル化が進んでいますが、当社の取り組みを通じてそれをダイレクトに実感し、求められる能力を開発してください」

思い込みや妄想を大切にして
自分の軸足で能動的に情報交換

後半は3氏によるトークセッションに移りました。最初のテーマは「AI時代に求められる能力」でした。

 片岡氏は本質を問う力の重要性を指摘、こう述べました。

 「AI事業で求められるのは『問い』を持てることではないでしょうか。例えば、高齢化の本質的課題は医療費なのか疑問です。実は、社会から切り離された高齢者の『孤独』ではないか、という意見を聞きました。物事の本質にたどり着くには、目の前の事象をそのまま受け取るのではなく、背後に潜むものを探ることが求められると思います」

 これを受けて加茂氏はこう語りました。「データを読み解いて仮説を設定し、その視点からデータを検証して実装に落とし込む能力が求められます。AI関連技術は急速に進歩していきますが、データを深堀りする作業には人間の能力が欠かせません」

 蛯谷氏は「周囲の事象をただ受け止めるのではなく、能動的にとらえ、自ら考え動く能力が欠かせません」と指摘し、「それは自分のキャリアを思い描くときも必要な能力だと思います」と付け加えました。

 次のテーマは「テクノロジー人材のキャリア」でした。

 蛯谷氏の指摘です。
 「リンクトインで『データサイエンティスト』と検索すると、データサイエンティストのプロフィールが詳細に表示されます。データサイエンティストの主流は、理科系の出身ですが、文系学生の成功例も多いといえます。商学部出身のある学生は、外資系保険会社で数理計算のインターンを経験し、データサイエンティストとして実社会に踏み出しました」

 加茂氏は「“これをやりたい”という熱意・意欲が事業につながる」ことを強調し、こう説明しました。

 「目まぐるしい技術革新の中では、まずやりたいことを固め、それに必要な技術を習得し、事業化に結びつけるパターンが望ましいのではないでしょうか。私自身は大学には進学せず、15歳前後からWEB開発にかかわってきました。社会をどう変えたいのか、そのためにどのような技術を身につけるべきかを考えてほしいと思います。実は当社には『横浜DeNAを強くしたい』、と入社してきた人もいます。そのモチベーションがプロジェクト化に結実しました」。
 
 セッション、最後のテーマは「何を学べば良いか」です。

 加茂氏が挙げたのが知的好奇心で、こう説明しました。

 「まずは、知的好奇心を失わないでいただきたい。これがデータを読み込む力や事業化へのモチベーションにつながります。次に、自分の中の軸足をしっかりさせること。それがないと、単にデータサイエンティストになりたい、という職種選択に終わってしまいます。自分はAIによって何をしたいのか。それこそ問題なのです」

 蛯谷氏は思い込み力を挙げ、「課題の解決はAIや各種ツールに任せても、熱い思いは人間しか持てません。それがビジネスの原動力になるのです」と述べました。

 セッションの最後に、片岡氏が「妄想を形にする力を大切にしてください。私は苔研究の中で、人間に葉緑体を入れる妄想を温めていました。そんなアイデアも実現する力がとても重要ですし、今後のAIの発展で可能になると信じています」と語りました。
 AIやデータ活用というと、理性的な面ばかりをイメージしがちですが、熱い想いが大切になることが浮き彫りになったセッションでした。

<キーノート講演>
AIの最先端
~ディープラーニングの最新事例~

日本ディープラーニング協会 マーケティングディレクター 林 憲一氏

“第三次AIブーム” 日本ディープラーニング協会とは

 現在、AI(人工知能)領域の中でも「機械学習」分野の1つとして分類されるディープラーニングは世界中で注目を浴びています。こうしたなか、「第三次AIブーム」を背景に、2017年6月設立されたのが、松尾豊(東京大学)先生が理事長を務める日本ディープラーニング協会(英称:Japan Deep Learning Association)です。

 「諸外国のディープラーニングに関する取り組みは急速に進んでいます。日本がグローバルに戦える体制を整えていくには、早期に『ディープラーニング産業』を拡大する必要があると考えます」(林氏)

 同協会では、ディープラーニングを活用できる人材になるために、2つの資格を設けています。そのうちの1つであるジェネラリスト検定(以下G検定)とは、ディープラーニングの基礎知識を有するとともに、それを事業に応用するための能力を測る検定。もう一つのエンジニア資格(以下E資格)とは、ディープラーニングの理論を理解し適切な手法を選択して、「実装」する能力を持つ人材であることを認める資格です。実は僕の知り合いにも、この二つの資格を持っている人がいるのです。

 「日経xTECH」が行った調査 『ITエンジニアがこれから取得したいと思うIT資格』にもG検定、E資格が初めてランクインしました。さらに2019年から、G検定は年に3回、E資格は年に2回試験が行われています」(林氏)

“第三次AIブーム” 日本ディープラーニング協会とは

 「ディープラーニングは、インターネット、エンジン、電気などに匹敵する技術だと私は考えています。ディープラーニングは非常に汎用性が高いからです」と林氏は述べた上で、このディープラーニングをカンブリア爆発に例えて説明しました。

 「現在のディープラーニング技術が、画像の入力に対して『それが何であるか』と言ったことを判断できるのならば、それは生命が目を持った時代、すなわちカンブリア爆発において生命が獲物を認識できるようになった時代と同じことを意味するのです」(林氏)

 私たち人間は、数字や文字を打ち込み、それが「何を意味するのか」を理解することができます。それと同様に、人工知能もまた眼の誕生によって、「それが何であるか」を認識し、行動を起こすことができるようになったそうです。現在では「音」や「画像」をも認識することができます。まさしく日々、情報を受け取り、処理を行う人間の脳と同じであると林氏は語っていました。
 
 「眼の誕生」によって、急成長を遂げる人工知能分野。しかしながら多くの国では、AIの社会実装には依然として課題が残っているとのこと。何が問題なのでしょうか。

 「デモ段階としては、技術的に可能であったとしても、社会実装となると、データそのものを使ってほしくない方やデータの管理の仕方の理解が十分でないことなど、問題がまだまだあります。技術は持っていても社会実装は難しいということです」(林氏)

 一方では日常の生活において、既にAIを幅広い分野で実装している国もあります。
 「中国、広州では顔認証システムが発達しており、コンビニエンスストアではQRコード決済に変わって顔認証で決済を、地下鉄では登録してあれば顔パスで利用可能になっています」(林氏)

 中国でのさらなる具体的なAI活用事例として、林氏は「エッジAI」を用いた「送電線の点検」を挙げました。現在中国では送電のために、全長160万キロ、地球約40周分の送電線と鉄塔400万本分を抱えています。これらの点検を行うには、非常に大きなコストがかかります。具体的に、送電線の点検のために人が目視することで歩いているそうです。それに加え電線には「高圧電流」が流れています。このような作業はどうしてもコストがかかかります。

 そこで中国企業「HUAWEI」では、送電線を繋ぐ鉄塔1つにつき1台のFullHDか4Kのカメラを設置し、カメラが異常を察知した時のみ管理側に知らせる仕組みを採用しています。この結果、低消費電力での観察が可能となりました。しかしながら、異常を察知するためには、どうしても「現場判断」が必要になるとのこと。どう対応したのでしょうか。

 「現場判断を行うには、エッジAIを用いて判断をすることが大変役立ちます。エッジAIとは、クラウド側ではなくエッジ側でモデルから予測までの処理を行うものです。HUAWEIでは、AIのアクセラレータモジュールであるAtlas200を導入することで、送電線の点検を行います。さらに、死角の部分はドローンを飛ばすことによって、点検を行なっています。推論処理には、YOLOやSVMなどを使い分けることによって、用途に応じてエッジAIが対応しているのです」(林氏)

 従来、人間が歩き目視することで行なっていた点検、すなわち「社会的な問題」を、エッジAI技術を用いることで「社会実装」として実現したというわけです。エッジAIの威力を教えられたエピソードでした。

 林氏は講演の最後をこう締めくくりました。
 「現在でも、日々多くの現場で人間がデータを打ち込んでいます。これからエッジAIは主戦場になるし、そのために日本ディープラーニング協会が行うG検定やE資格を通して、ディープラーニングを用いた課題解決ができるようになっていただきたいと思っています」
 (リポート:早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科、学生団体 Waseda AI Lab 副代表 遠藤 竜仁)

Information

イベント名
Data Science Fes 2019
主催
日本経済新聞社
期間
2019930日(月)~20191129日(金)
お問い合わせ
dsfes@nex.nikkei.co.jp