変化の先へ~データサイエンスはビジネスサイエンスへ~
日本のデータ社会の現状、課題、解決策を考察

―― Data Science Fes 2019 オープニングフォーラムからVol.2~オープニングセッション、企業プレゼンテーション①、企業プレゼンテーション②

  • SHARE
  • facebook
  • twitter

 9月30日、東京・千代田区の一橋講堂で「Data Science Fes 2019 オープニングフォーラム」が開催された。日本経済新聞社が主催するData Science Fes 2019は、「データで社会を変える=データサイエンス」を起点に、産・官・学の変革に意欲的なステークホルダーが一堂に集まり、日本全体でデータ・ドリブンを加速させるために共に考え、共創してゆくプロジェクト。オープニングフォーラムでは、参画パートナーたちがそれぞれの視点から、テーマ別に日本のデータ社会の現状、課題、解決策などを語り合った。

<オープニングセッション>
「データビジネス最前線──課題の克服に一石」

ファミリーマート 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏
フューチャリスト 『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』共著者
尾原和啓氏
日経BP「日経クロストレンド」特別編集委員
杉山俊幸氏

 プレセッションに続くオープニングセッションのテーマは「データビジネス最前線──課題の克服に一石」。ファミリーマートのデジタル戦略部長・植野大輔氏、フューチャリストの尾原和啓氏、「日経クロストレンド」特別編集委員の杉山俊幸氏が登壇し、闊達な議論が交わされた。

オンラインがオフラインを覆う、デジタル活用の今

 オープニングセッションの前半は三者がプレゼンを行った。まずは日経BPの杉山氏が、人工知能などデータ分析が進化する背景を説明。その流れのなかで、「日経クロストレンド」が「日経xTECH」と共に開催する「ディープラーニングビジネス活用アワード」を紹介した。これは、ディープラーニングを使って新たな事業を生み出したインパクトの大きなプロジェクトを表彰するもの。今年の大賞はキユーピーの「AI食品原料検査装置」に決定した。食品製造ラインには異物混入対策など極めて高い安全性が求められるが、現在は人手に頼っている原料選別をディープラーニングが得意とする画像認識技術を使った検査装置に置き換えたものだ。
 「原材料を判別する検査装置を作ったことは画期的ですが、何より凄いのはこの装置を食品業界の競合他社にも売ること。日本国内で競争していても井の中の蛙になってしまいます。『オールジャパン』で戦わなければ世界では勝てません」(杉山氏)

 次に、ファミリーマートの植野氏が同社のデジタル戦略の概要を紹介。特に、今年7月1日からスタートさせたスマホ決済アプリ「ファミペイ」の戦略性を語った。各種電子決済サービスが乱立する中、「ファミペイ」は後発となるため立ち上げ時には厳しい声が多かったという。しかし「勝算はあった」と植野氏は指摘した。
 「オンラインは最初からキャッシュレスの世界であって、現金払いがキャッシュレスになるのはリアル店舗です。ファミリーマート全店舗の年間売上高は約3兆円。我々こそがキャッシュレスのど真ん中にいます。まずは、リアル店舗の世界でNo.1となることを目指していきます」(植野氏)
 ファミペイのサービスは決済だけではない。会員属性や購買履歴をもとにしたクーポンの配信、買い物内容をスマホで確認できる「電子レシート」機能、チケットの発券、電気・水道・ガスの支払いなど収納代行にも対応する。

 尾原氏は、世耕弘成前経済産業大臣が推薦する『アフターデジタル』のサブ著者だ。この本で一貫して訴えているのは、一言でいえば「もはやオフラインはない」ということ。つまり、オンラインがオフラインを覆い、元々オフライン行動だった生活すべてがデジタルデータ化して個人に紐づき、あらゆる行動データが利用可能な時代になったと指摘する。
 「今こそデータが何のためにあるのか。その先のおもてなしがどうあるべきかを考えなければいけません。デジタルオーバーラッピングを前提にしたエクスペリエンス競争が始まっているのです」(尾原氏)

リアルの強みを生かしたデジタル戦略がキーポイント

 セッション後半のディスカッションでは、杉山氏が「無人コンビニ」を俎上に載せた。尾原氏によると、中国では無人コンビニを運営する会社が28社誕生したが、次々と倒産ないし閉店し一部しか残ってない状態に追い込まれているという。ユーザーが来たい場所であったかという疑問が提示される。
 続けて尾原氏が、日本のGDPの中でネットが関与する比率は小売りの6%、広告の1%に過ぎないという事実を引き合いに出した。ECによるデリバリー化が進んでいる米国ですら2割に満たないという。
 「日本のEC購入率は5~6%に過ぎません。やはりリアルな強さは残っています。リアルをいかにエンハンスするかが問われています」(尾原氏)
 「自分の足で歩いて、買い物に行って、選びたいというお客様のリアルへの欲望、ニーズにはしっかり応えていく必要があります。もちろん、全部デジタルにできるわけではありませんが、いかにデジタルを組み込ませるかを考えていかないといけません」(植野氏)
 「デジタルプレーヤーの強みは、データを最適化しデジタルマーケティングのPDCAを回していけるところにあるといえます」(尾原氏)
 リアルの中にデジタルをどのようにうまく取り込んでいくかが、キーポイントとなってきそうだ。

顧客の好みやタイミングに合わせたデジタル施策が重要

 尾原氏は、セッションのなかでAIには2種類あると指摘した。
 「自動化のAIと付加価値を増やすAIです。AIにより、ロボット技術が発達し、データを持っている企業は、よりきめ細かくカスタマイズできるようになります。ロングテールのデータを集めたり、付加価値とパーソナライズを進めていけばいくほど、その企業は強くなっていけます」(尾原氏)
 杉山氏からは「立地や人の流れの重要性は、デジタルとの絡みの中でどのように位置づけられるのか」という問いも提起された。その問いに対して、植野氏がファミリーマートのデジタル施策の課題を明かした。
 「店外で人がどう動いているかということまではまだ捕捉できていません。人の動きはとても重要で、それが捕捉できればほかにもいろいろな施策を展開できます」(植野氏)
 その後も三者の発言のなかで、「データとSCM」「ダイナミックプライシング」「One to One」などのキーワードが飛び交った。いずれも、データを取ることによってビジネスがしやすくなるという点では見解が一致している。そうしたなかで、杉山氏が指摘したのが個人情報の取扱いの重要性だ。これに対して、植野氏は「倫理観が求められます」、尾原氏は「ユーザーのためなのかどうか、信頼作りが何よりも大切です」と語った。
 セッションの最後では、三者は以下の発言で締めくくった。
 「キーワードはOMO(Online Merges with Offline)。ユーザーに点ではなく、線や面で接する時代です。そのなかで、どんな笑顔を増やせるか。そのためにどんなデータが必要かを考えていかなくてはいけません。可能性はさまざまです。皆で億万長者になりましょう」(尾原氏)
 「我々がやっていることは、デジタルとリアルを掛けわせたビジネスです。ぜひ、ファミペイに注目してください」(植野氏)
 「お互いにどういう関係を築いていくかが大切になってくる気がしています」
(杉山氏)

<企業プレゼンテーション(第1部)>
「社会によって変わる“働く”と、テクノロジーで変える“はたらく”」

パーソルキャリア 執行役員 テクノロジー本部 柘植悠太氏

 「Data Science Fes 2019 オープニングフォーラム」では、計4社から企業プレゼンテーションがあった。ここではデータサイエンスを切り口にした各社の取り組みや事例紹介、現状把握、将来展望について紹介する。最初に登壇したのは、パーソルキャリアの柘植悠太氏だ。

日本が直面する労働環境をふまえて、新しいミッション「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」をめざすパーソルキャリア――企業プレゼンテーション①

 10月1日、パーソルグループは新しいグループビジョン「はたらいて、笑おう。」を発表。このビジョンの実現を目指して同社は、「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」をミッションとすることを公表した。登壇した執行役員の柘植悠太氏は、10月1日付で発足したテクノロジー本部の本部長を兼任する。
 プレゼンテーション前半は日本が直面している労働環境について、グループ会社のパーソル総合研究所が今年2月~3月にアジア太平洋地域(APAC)14の国・地域で実施した調査結果などから考察された。

 「働き方改革が大きく注目されるなかで、よく指摘されるのが日本の『労働生産性』の低さです。労働生産性の数値は一般的に、従業員数または時間あたりの労働量に占める労働による成果で算出されますが、日本全体でのマクロな捉え方では現状が見えてこないというのが私どもの考えです」(柘植氏)
 その上で柘植氏は、調査結果からアジア太平洋地域の14か国・地域と日本の労働者の「意識」を比較。日本は出世意欲や起業・独立志向、学習・成長意識などが低く、特にダイバーシティ度、勤務先の満足度はいずれも最下位かワースト2だったことを紹介。また「高齢でも働き続けたい」と答えた人は最も多いが、転職の意向も最下位だったと指摘する。
 「この結果から、今日本で働いている人たちの意識は大きく多様化しているのではないかと考えました。マクロでは働く意識が低下しているようでも実際は人それぞれ働くことに対する捉え方は異なります。私どもは、社会によって変わる“働く”もあれば、個人の“はたらく”によって変わっていく社会もあるのではないかと考察しました」(柘植氏)

 この現状把握を踏まえてプレゼンテーション後半で紹介されたのが、テクノロジーを活用して“はたらく”を変える同社独自の取り組みだ。
 「私どもはキャリアアドバイザーと転職希望者のマンツーマンによる会話で、転職のサポートをしていますが、その現場に『AIスピーカー』を導入しています。転職希望者の同意を得たうえで現場で交わされた音声をデータとして、業務の効率化と品質向上に活用しています」(柘植氏)
 具体的には、ベテランのキャリアアドバイザーによる会話履歴を教育・研修に役立てるとともにテキスト化されたデータをもとに一層のサービス向上に活用しているという。これによって、人材育成のための業務を効率化・合理化するとともに、ユーザーにとって満足度の高いサービスを目指している。
 もう1つの事例は、同社が描く働き方の「将来像」だ。
 「これはかなり将来の働き方提案になりますが、働く場所や時間、特定の組織にとらわれない、働く環境の整備です。HRをブロックチェーンと組み合わせることで、企業と個人とが『働く情報』を共有して企業も個人もともに『個性を活かせる』働き方を実現していきます」(柘植氏)
 併せて紹介されたのが同社が制作したイメージビデオだ。登場した人物は複数の仕事を持ち、1日のなかで場所や時間を自分で選んで自由に働く。仕事と仕事の合間には趣味を楽しむ時間も。
 同社は新たに発足したテクノロジー本部を中心に、日本の「はたらく」をダイナミックに変える取り組みに注力している。それは、「個と全体」双方からのアプローチで未来を変えるというものだ。

<企業プレゼンテーション>
「一億総データサイエンティスト時代に向けて」

KPMGコンサルティング Advanced Innovative Technology マネジャー 清水俊雅氏

企業のニーズを満たすコンサルティングに不可欠なのは、「プラス1」の知識とスキルを持ったデータサイエンティスト

 企業プレゼンテーションの二番手に登壇したのは、KPMGコンサルティングでマネジャーを務める清水俊雅氏。清水氏は、コンサルティングの現場でデータサイエンティスト(以下、DS)が直面するシビアなシチュエーションの数々を明かした上で、今後到来するであろう1億総DS時代を勝ち抜くためのDS像を考察した。

 まず、プレゼンテーションの冒頭で清水氏はDSの需要が、2016年比で243%アップ(2019年9月現在)しており、2020年には10万人が不足するとされる米国市場の予測を取り上げた。一方で、これまで上昇傾向にあったDSの賃金が初めて減少に転じた実態を紹介。
 「DSの人気を受けて、「データサイエンス」の名を冠した仕事が増加しており、さらにエントリーレベルのDSの急増が賃金の減少につながっています。つまり、近い将来1億総DS時代が到来します。その結果、企業が求める具体的な施策にまで踏み込めないDSも増えている現状が“人材不足”と言われる理由の1つです。コンサルティングの現場でDSが直面しがちなシーンをいくつか紹介し、企業がDSに真に求めるスキルを考えていきます」(清水氏)
 フィクションを含んでいるが、事実に近いとして紹介されたのが3つの事例。1つ目はDSが必要と指摘したデータについて、クライアントから「どこに保存されているかわかりません」、「あるけど、手書きです」と言われてしまうケース。そして、データを分析した結果を示しても「わからない」と返答されたり、分析結果から業務改善の提案をしても「なぜ?」「で?」などと指摘されてしまうケースだ。
 「ここから“DSに真に求められているスキル”のヒントとしては、分析できるデータがすぐに手に入るとは限らないということ。そして、分析して終わりではありません。分析内容を説明し、分析結果をわかりやすく可視化して初めてクライアントが納得できて、業務改善の効果や具体的なロードマップを示すことができるのです」
(清水氏)。

 ビジネスの現場で求められる“理想のDS像”として、よく取り上げられるのが「データサイエンス」と「ビジネス」、「エンジニアリング」の知識・スキルを掛け合わせた図だ。エントリーレベルのDSの多くが、「データサイエンス」の部分が大きく、ほか2つの知識・スキルが足りないため、企業との間にギャップが生じていると清水氏は指摘する。
 「グローバル化・ボーダーレス化した企業活動には、ビジネスの領域・エンジニアリングの領域に、クライアント業務、BPR、ガイドライン、既存システム、UI/UX、インフラなど多彩な知識やスキルが求められます。そのすべてに精通している必要はありませんが、企業が求める答えを導き出せるDSには「データサイエンス」以外の知識やスキルを身につけておくべきだと思います。データと向き合っているだけではだめなのです」
(清水氏)
 KPMGコンサルティングでは、企業のニーズを的確にとらえて「プラス1」の知識・スキルをもったデータサイエンティストの教育・育成を積極的に進めているという。コンサルティングの現場で企業が求めているのは、直面している課題の発見とその解決のために必要な具体的な取り組みだ。“1億総DS時代”で生き残り、企業のニーズを満たすには付加価値の高い「プラス1」を身に付けたDSこそが必要といえるだろう。


Data Science Fes 2019 オープニングフォーラムからVol.1~プレセッション~
Data Science Fes 2019 オープニングフォーラムからVol.3~企業プレゼンテーション③、企業プレゼンテーション④、テーマプレゼンテーション①、テーマプレゼンテーション②~

Information

イベント名
Data Science Fes 2019
主催
日本経済新聞社
期間
2019930日(月)~20191129日(金)
お問い合わせ
dsfes@nex.nikkei.co.jp