事例から検証する
データドリブン経営・ビジネス戦略

―― Data Science Fes 2019 ビジネスデベロップメントフォーラムから

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<企業講演>
世の中の動向と顧客対応から見えてきたAI活用の論点

TIS株式会社
AI & ロボティクスビジネスユニット AI & ロボティクスサービス部 エキスパート
鮫島 健士氏

鮫島 健士氏

AIを上手く活用するためには、「予測・推論の精度」、「組織・人材」、「倫理」の3つが重要

 登壇したのはTISの鮫島氏。同社は金融、製造、流通、エネルギー、公共など幅広い業界でシステム開発を手がける大手SI会社(SIer)の1つだ。
 AIとロボット分野に特化した事業部を2017年に立ち上げており、鮫島氏はAI領域のエキスパートの1人として2019年5月に現職に就いている。鮫島氏は講演のゴールを、次のように設定した。
 「AIの本格的な活用には多額の投資が必要になります。AIの導入・活用にあたって皆さんがおおむね課題の“重要度”と“優先度”を把握できたと言える状態をゴールにしたいと考えています」(鮫島氏)
 AI活用の前提としてまず鮫島氏が挙げたのは、求められる要素。求められる要素には、「利用データの品質」、「予測・推論の精度」、「システムの品質」といった技術の領域と、「利用する業務」、「利用組織・人材」、「コンプライアンス」、「倫理」などの事業や業務に関わる非技術の領域の10項目が考えらえると紹介。
 論点を客観的に絞り込む方法として企業のアンケート結果から、日本企業のAI活用率は10.2%に留まっていることから見えてくる課題について言及した。
 「AIの要素技術の1つと言われるテキストマイニングで企業のアンケートを分析した結果、AI活用の課題で目立ったのは、『使いこなせない』といった業務よりのもの、『精度』という技術よりの2つの課題でした。特徴的なのは、企業のAI活用レベルを『検討中』、『実証実験』、『導入済み』に分けて分析したところ、『AI人材』が課題と回答した件数の割合はそれぞれ30.5%、35.1%、34.6%とほとんど変わらないことです」(鮫島氏)
 次いで、AIの活用で先行する海外の動向をテキストマイニングで分析した結果から、海外の企業は日本企業が課題と認識している技術や人よりも組織が重要であり、更に、日本企業の課題には無かった倫理を重視している現状を紹介。
 「倫理について、主に海外の事例ですが、完全自動運転のクルマが死亡事故を起こすケース、金融のアルゴリズムトレードで多額の損失が発生するケース、プライバシーに関わるデータを活用したAIが人種や性別の差別問題を引き起こすケースなど、AIの活用を通じて倫理的な問題に至ったケースが多数あります。特に、完全自動化を目指すAIには注意が必要です。この事例から、AIを開発する人、AIを利用する人の双方の倫理観が重要であることが分かります」(鮫島氏)

 講演前半のまとめとして鮫島氏は、AI活用の条件として挙げた10項目のうち「予測・推論の精度」、「開発組織・人材」、「利用組織・人材」、「倫理」の4項目がポイントと強調した。

AIを開発する組織だけでなく関係部門との役割分担と連携が重要、人材育成では倫理面を考慮

 講演後半は、実際にAIを活用している企業で発生した課題を挙げ、その解決方法について言及があった。
 「AIの精度を高めると活用する事業や業務への効果は高まるのかという質問をお客様から頂くことがありますが、結論から言ってやみくもに精度を高めるだけでは期待する効果は得られないというのが現場での本音です」(鮫島氏)
 鮫島氏が事例として挙げた小売業の場合、会員サービスの解約率を下げるための施策として、解約率の高い顧客を発見するAIを開発し、高い精度を実現するために約1年もかけた。解約する確率の高い顧客に対して割引クーポンを提供したものの、割引クーポンを利用したあとに顧客が休眠化、解約する結果になったという。
 「このケースでは、解約率を予測するAIの精度を高めることばかりに注力した結果、解約する可能性の高い顧客を発見できたものの、その後に売上や利益を増やすための施策を考え、そのAIを開発していなかったことが問題です。本来であれば、解約率を予測するAIだけではなく、自社の製品やサービスを購入する確率の高い顧客を予測するAIも開発すべきでした」(鮫島氏)

 また金融機関の事例では、営業部門は融資商品の契約確率の高い顧客を予測するAIを開発、審査部門は貸し倒れリスクの高い顧客を予測するためのAIを開発した。営業部門がAIを使って融資商品の契約確率が高い顧客にアプローチして契約を獲得したが、その顧客は貸し倒れリスクの高い顧客でもあった、結果としてその融資は返済不能になったという。
 「このことからわかるのは、組織が縦割りになっていると、AIも縦割りになってしまうということです。結果として、異なる部門で開発したAIが同一顧客にビジネス上でリスクのある意思決定を下すことがあります」(鮫島氏)
 AI活用のために開発を自社で手がけるのか、TISのようなSI会社へ委託するのかによって異なるが、事業部門がプロジェクトをリードし、AI部門は先端技術の選択と適用をうながし、IT部門はガバナンスを担う体制が理想と鮫島氏は言う。
 「事業部門がAIのプロジェクトをリードすることで、AI活用の目標設定とその評価という最も重要な最初と最後のプロセスをしっかり統括することができます。これがAIを活用するための大きなポイントと言えます」(鮫島氏)

 そして、多くの企業にとって課題となっている人材確保については、慢性的に不足しているAI人材は外部からの登用と既存社員の人材育成の両輪が必要と話す。
 「AIを自社で開発するのか、弊社のようなSI会社(SIer)に外注するのかによって人材確保の手段は異なりますが、共通して言えるのはAIの開発や活用経験が豊富なベテラン人材は極めて少ないということです。大量採用は望めないことから、数少ないベテランの人材に有望な若手を育成してもらうことがポイントになります。中途採用が難しい場合は、弊社のようなSI会社(SIer)にAI開発を委託し、そのプロジェクトに若手人材を参画させて実務経験を積ませる方法が有効です。また、AIを活用するためには倫理面の教育も今後求められてきます。AIの倫理はリスク対策というイメージが先行しがちですが、自社の顧客を知るという意味でマーケティング活動に近いと考え、積極的に取り組んでいく必要があると考えます。」(鮫島氏)
 AIの活用にあたって、多くの企業が組織の整備や人材の育成などの課題に直面する。TISでは、企業の課題に応じて導入・活用できるソリューションやコンサルティングサービスを提供している。今後もAIの導入・活用で、企業の成長をサポートする事業の拡充を目指すという。

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Information

イベント名
Data Science Fes 2019
主催
日本経済新聞社
期間
2019930日(月)~20191129日(金)
お問い合わせ
dsfes@nex.nikkei.co.jp